何がパワハラ?悩む自衛隊…命がけの現場でも語気強めればすぐに「威圧的」主張、指摘恐れ萎縮も
被害の声を上げやすくなった一方で、パワハラかどうか判断が難しい事例も増加した。
防衛省の訓令はパワハラを〈1〉階級や期別の優位性を背景に〈2〉職務の適正な範囲を超えて〈3〉精神的・身体的苦痛を与えるなどの行為――と定める。パワハラかどうかは、受け手の不快感ではなく言動の背景や状況、継続性を総合的に判断する。
だが、同省担当者は「同じミスを何度もするから厳しく指導されているのに、それを棚に上げて『自分だけが怒られる』と訴えるケースも散見される」と明かす。
■基準を確認
元々こうした問題が起きることは懸念されていた。同省が設置したハラスメント対策に関する有識者会議が昨年8月にまとめた提言は、適正な指導とパワハラの区別に関して、上官と部下の間で「認識にズレが生じる場面が起こりうる」と指摘。組織として明確な共通認識を構築すべきだとした。
対策も始まっている。陸自は7~8月、13万人超の全隊員を対象に、パワハラやセクハラに該当するかを問う10の質問を「はい」「いいえ」で答えさせる資料を配った。誤解されやすい事例を中心に具体的な判断の基準を示し、理解を深められるようにした。
陸自の担当者は「隊員間に『パワハラは許されない』との考えは浸透してきた。しかし、『何がパワハラになるか』という共通認識はできていない」として、「危険な任務の遂行には上司と部下の信頼関係が不可欠。適正な指導の範囲をしっかり共有することが課題だ」と話している。
警察や医療も「悩みあるはず」…専門家
「冷静な環境で説明を」
厚生労働省が全国7780の企業・団体から回答を得て5月に公表した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、「パワハラの相談事例があった」との回答は6割を超えた。各種ハラスメントの対策を巡る課題として、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」との声も6割近くあった。
労働政策研究・研修機構(東京)の内藤忍・副主任研究員は「人の命に関わる業務に就く警察や消防、医療、建設工事の現場でも同じような悩みがあるはずだ」としたうえで、「人格を否定する発言は論外だが、緊急の場面では強い口調での指導が必要な時もある。それはパワハラには当たらない」と語る。
内藤氏は「厳しい指導ばかりでは信頼関係は築けない。冷静な環境で指導の趣旨を丁寧に説明するなど、相手に合わせた対応が問われている」と指摘している。