業界刮目。辻調x有名容器メーカーがレトルトで叶える「3つ星ジビエ料理」
レトルト技術は新たな『調理法』
たとえば「ぶり大根」のレトルト化には、食品包装と調理技術のドラマチックな協業がある。辻調理師専門学校 東京・日本料理教員の野中覚氏は次のように話す。 「最初にぶり大根をレトルト対応カップに詰めて加圧加熱殺菌した際は、鰤の身は収縮し、煮汁は濁り、味は薄いままでした。そこで、鰤を重曹とカラギーナン(ゲル化剤として食品に広く使用されている多糖類の一つ)溶液に漬け込んで身の軟度と保水性を保ち、ブランチング*によってタンパク質を制御したところ、通常の調理に劣らない仕上がりになりました。 容器に詰めてレトルトする食材は途中で蓋を開けられないので、事前の作業工程において補う必要があるのですが、レトルト技術を殺菌にとどまらぬ『調理法』と捉え直すことで、新たなおいしさの領域が広がることを実感しました」 ※ブランチング(Blanching英語で白くするという意味)とは、主に野菜や果物などの生鮮食材を冷凍、乾燥、または缶詰などにするための前処理として行われることが多い、短時間加熱したのちに冷やすという調理法である。 実は、「重曹とカラギーナン溶液に漬け込む」という前工程が素材の硬化と保水力の低下を防ぐ上で有効なことは、東洋製罐が大正13年に開設した研究所が前身である、東洋食品研究所の2022年の研究成果で明らかになった。 通常の調理では加熱工程で食材やレシピに合わせて様々な調理操作を加え得るが、レトルト殺菌では「高圧釜での加圧加熱が最終工程」となる。この違いを前提に、食材を最大限によい状態に仕上げるため、前処理の方法やレトルト条件の試行錯誤を重ねた結果の学びである。 ちなみに、「重曹とカラギーナン溶液による食材の下処理」「ブランチングによるタンパク質の制御」はいずれも、広義の「包む技術」(レトルトなどの食品製造の前工程技術)に関連した調理法といえる。 そしてこの事実は、レトルトが「安全に包む」加工技術を超えた「通常の調理に劣らぬ美味を叶える調理法そのもの」たり得ることの証左だ。いわば、「調理技術」の辻調理師専門学校と「包む技術」の東洋製罐グループとの出会いが、まったく新しい(レトルト)技術を生んだのである。