1000馬力のチューニングカーよりも600馬力のスーパーGTマシンのほうが圧倒的に速い! クルマの速さは何が影響しているのか?
GTマシンの速さは段違い
日本のチューナーの技術探求力には目を見張るものがあり、いまや1000馬力オーバーのナンバー付きチューニングカーを作れるショップもいくつもある。 【画像】チューニングカーの美しきエンジンルームの画像を見る 当然、サーキットだって全開で走れる信頼性もあるわけだが、そのラップタイムはどれほどレーシングカーに迫っているのか。富士スピードウェイで比較してみると、R35GT-Rのチューニングカーで、最速クラスになるとラップタイムは1分40秒。平均時速でいうと164km/hだ。 一方、国内最速のハコ車のレーシングカー、スーパーGTの富士でのレコードを見てみると、ラップタイムは1分25秒台! チューンドカーのR35GT-Rの最高出力が、1100馬力なのに対し、GT500のマシンは名前の由来どおり、エンジンパワーはその半分の550馬力(以上)ぐらいしかない。それなのに、15秒もの大差をつけてレーシングカーが速いのはなぜなのか。
サーキットを最速で走るために設計されたのがレーシングカー
まず、チューニングカーの強みは、エンジンパワーと最高速だが、エンジンパワーは2倍になっても、最高速は1.4倍にしかならないというデータがある。これは速度の二乗に比例して、空気抵抗が大きくなるためだ。 スーパーGTもマシンは、いまやフォーミュラカーにも匹敵する空力マシンで、空気抵抗を極力減らしながら、ダウンフォースを得ることに成功している。チューニングカーでは、そこまで空力を突き詰めていないので、パワーはそれほどアドバンテージにはなっていない。 次にボディ。メーカーのエンジニアに聞いたところ、ボディに関しては昔から「ボディ2乗の法則」があり、エンジンパワーが2倍になったら、ボディ剛性は4倍にしなければならないと教えられてきたとのこと。 レーシングカーは、カーボンコンポジットなどをふんだんに使い、重量を増やさずにボディ剛性をこれでもかと強化しているので、ボディ剛性は十分あるが、1000馬力オーバーのチューニングカーのボディが、ノーマル状態から4倍のボディ剛性をもっているとは思えないので、ボディがそのパワーを受け止められずに、どこかでパワーが逃げてしまう。 そしてタイヤ。スーパーGTは大手タイヤメーカーがしのぎを削りながら、開発競争を繰り広げているので、そのグリップ力は強力無比。 対するチューニングカー(=ナンバー付き)には、市販のラジアルタイヤという制約がある。減速Gやコーナリングの横Gでは、スーパーGTだと3G近くかかることがあるが、ラジアルのチューニングカーでは1Gちょっと。 エンジンが強力で、加速力はあったとしても、Gフォースが2.5倍から3倍もあれば、ボトムスピードが圧倒的に違う。スーパーGTの富士での平均速度は時速193km/h。チューニングカーの平均速度が164km/hなので、それがそのままタイムの差に表れているわけだ。 ちなみに高速コースとして知られる富士スピードウェイの全開率は57%(F1マシンの場合)。チューニングカーであれば、おそらく全負荷・全開は10%程度なので、1000馬力のパワーが生かせるのも全体の10%ほど。したがって大事なのはピークパワーよりもむしろドライバビリティ。全体のつながりのよさといってもいいだろう。 そのほか、車重の軽さ(GT500の最低重量は1020kg)、ブレーキのキャパシティ、前後重量バランス、重心高、ジオメトリなど、すべてが、サーキットごとに最適化されているレーシングカーと、雨の日も晴れの日もストリートも走れるチューニングカーを同じ土俵で語るのはナンセンス。 むしろナンバー付きで、1000馬力で、スーパーGTの15秒落ちというチューニングカーの底力に、もっと驚いてもいいぐらいだ。
藤田竜太
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