映画『時々、私は考える』7月26日(金)公開! 自分を変えるために必要な時間は人それぞれ
一年365日、映画&ドラマざんまいの今 祥枝が、おすすめの最新映画をピックアップ! 今回は、静謐で詩情にあふれた映像で不器用な大人の生き方を描いた『時々、私は考える』をレビュー。 今 祥枝がレビューする【おすすめシネマ】 フォトギャラリー
『時々、私は考える』 自分を変えるために必要な時間は、人それぞれでいい
どこにいても、誰と一緒にいても、いつも自分は浮いた存在。そんなふうに感じて、寂しい思いを胸に抱えながら日々を過ごしている人は、きっと世界中のどこにでもいるはず。『時々、私は考える』の主人公フランも、そんな一人だ。 オレゴン州アストリアの閑散とした港町で生まれ育ったフランは、不器用でまじめな性格で人づきあいが苦手だ。誰かと一緒にいるとうまく話さなければと焦ってしまい、素朴で優しい会社の同僚たちにもなじめず、落ち着かない。そんな中、新しい同僚ロバートと話すようになり、家と会社を往復するだけの毎日に変化が訪れる。 フランにとって、一人の時間は心地よさを感じるが、同時にこのままずっと一人で年を重ねていくことへの恐怖もある。だから一歩踏み出してみたものの、今度は一人になるたびに、なぜあんなことを言ったのか、どうしてあんな態度を取ってしまったのかと、頭の中に後悔がぐるぐると渦巻いて自分を消してしまいたくなる。その葛藤が、静謐で詩情にあふれた映像を通してリアルに伝わってきて、わかるよという共感ともどかしさで胸がいっぱいになる。 実はフランには、変わった空想癖がある。それは時々自分が死ぬことを考えて「楽しむ」ことだ。一瞬ぎょっとするかもしれないが、レイチェル・ランバート監督も同じことを考えてしまうのだという。なぜなら、「生きていくことが大変だから」。正しく生きること、有意義に生きること、健康で安全で幸せに生きること。今の時代に、それはなかなかに高いハードルだと思う。 努力して生き生きとした毎日を送る女性の姿をメディアは伝えがちだし、SNSでも目についてしまう。しかし、人生に唯一の正解があるわけでもなければ、思っているほどみんなが完璧な人生を送っているわけでもないだろう。だから、自分の心を守るために時々空想に逃げ込んだっていいのだ。人にはそれぞれ自分のペースがあり、成長するために必要な時間は異なるのだから。 監督/レイチェル・ランバート 主演・プロデュース/デイジー・リドリー 配給/樂舎 公開/7月26日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開 【ナビゲーター 今 祥枝】 一年365日、映画&ドラマざんまいのライター、エディター。編集協力に『幻に終わった傑作映画たち』(竹書房)。 ※BAILA2024年8・9月合併号掲載