楽天モバイル、荒業「新定義ARPU」で黒字化へ王手 顧客定着でジレンマ脱却
業績は堅調に改善、ジレンマ脱却
とはいえ楽天モバイルの業績が堅調に改善していることは確かだ。特に好材料なのは、楽天モバイルが契約数と単価の「ジレンマ」を脱した点である。 これまでの楽天モバイルは、契約数を増やすために料金改定するとARPUが落ち、逆にARPUを増やすために料金を改定すると、顧客離れが起きて契約数が減るというジレンマがあった。今回、このジレンマがようやく終わりつつあることが見えてきた。 直近で楽天モバイルは、契約数を伸ばすことに特化して、学生やファミリー層、シニア層向けの割引プランを立て続けに拡充している。ほとんどが割引プランであり、ARPUをひとまず度外視してでも契約数を伸ばし、顧客基盤を固める計画だったと見られる。業界関係者も「とにかく(契約数の)純増、という考えのようだ」と話す。 楽天モバイルは、かつて月に利用するデータ通信量が1ギガバイト未満の場合、無料になる「0円プラン」で契約数を伸ばした。しかしARPUが伸び悩んだために0円プランを廃止すると一気に契約数が減少したという苦い経験がある。その後は契約数増加に向けた施策に振り切り、一時ARPUが減少したものの、直近ではごくわずかだが増加に転じている。 今後もしばらくは、ARPU上昇を狙った実質値上げを計画は予定していないようだ。従来定義におけるARPU向上策について問われたとき、三木谷氏は「多少の修正はあるかもしれないが、大きなものは現段階では考えてはいない」と答えた。基地局などネットワーク全体の消費電力の削減など、効率を上げてコストを落とす方向に注力するとの考えだ。 三木谷氏は「楽天モバイルは、単体の事業というよりエコシステムの大きな柱として展開している」と会見で繰り返し強調した。楽天グループはインターネットサービスや金融事業の伸びが引き続き堅調であり、他の通信事業者のようにモバイル事業を収益の柱とする必要性が薄い。 もっとも、楽天モバイルがもともと掲げていた「24年内の単月黒字化」も、あくまで減価償却費を除外した目標だ。通信事業者は巨額の設備投資が必要で減価償却費が重い。減価償却費も含めた黒字化はまだ先だ。 競合各社は楽天モバイルへの警戒を強める。相次いで月に利用できるデータ容量を増量した実質値下げに踏み込み、「楽天モバイル包囲網」ができつつある。足元では荒業も繰り出して黒字化目前までたどり着いた楽天モバイルだが、稼ぐ力を伸ばして真の意味で健全な経営を築くには、まだ乗り越えるべき壁は多い。
杉山 翔吾