「差別」の壁に子供と大人はどう向き合う アフリカ系フランス人少女、世界最古のバレエ学校受験 映画「ネネ―エトワールに憧れて―」
【渡邉寧久の得するエンタメ見聞録】 多様性について語られることの多い今という時代を、ちょうど合わせ鏡のように映し出している作品だ。フランス映画界の新鋭、ラムジ・ベン・スリマン監督が脚本も手掛けた「ネネ―エトワールに憧れて―」(11月8日公開)。 主人公のネネ(オウミ・ブルーニ・ギャレル)は12歳の少女。世界最古の歴史と格式を有するパリ・オペラ座のバレエ学校を受験する。 ネネ以外の受験生は、パリのいいとこ育ちで、2歳半からバレエを習っていて受賞歴は…というキャリアをアピールする。全員生粋のフランス人で肌は白く、髪の毛は金髪。旧来のバレエダンサーのイメージを体現している。 一方のネネ。パリ郊外の団地育ち。アフリカ系フランス人で、髪の毛はチリチリ。受験の実技を見守る先生たちの表情が、ネネを入学させるべきかどうかの迷いを物語る。案の定、白熱する議論。言葉の端々に差別意識を隠さなかったり、それに似た何かをにじませたりする先生もいる。だが才能を見抜く理解者が強く推す。 合格者は7人という狭き門。彼女たちが競い合いエトワール、つまりパリ・オペラ座バレエ団の最高位のダンサーを目指す。 みなライバルである。正々堂々と技術の向上を競い合いつつも、陰湿ないじめの対象としてネネは狙われる。校長のマリアンヌ(マイウェン)のバレエ理解は、バレエは白人のものであり、アフリカ系では「白雪姫」や「シンデレラ」は踊れない、という旧態依然としたものだ。 なぜマリアンヌはかたくななのか。その理由は彼女の出自に関連していることがやがて明らかになる。 悲しい場面がある。鏡を見ながらネネが、自分の顔や腕、胸など体中に白いパウダーを塗る場面だ。どうしようもない運命にあらがおうとする12歳。同級生に痛めつけられる娘を、父親は「差別に反応すれば水の泡だ」と諭すのだが…。 逆境、理不尽、教育者による暴力、クラスメートとの確執などを、家族のサポートや敵対していた校長の理解によって乗り越えていく。物語を構成する断片は特段意表をつくものではないが、うまくまじり合いながら、少女の成長物語として結実している。 (演芸評論家・エンタメライター) ■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。