小椋藍、家族の献身に支えられ15年ぶりのMoto2日本人王者に! 残り2戦で披露される全開の走りに注目せよ
10月27日、チャーン・インターナショナル・サーキットで開催された第18戦タイGPのMoto2クラス決勝で、タイトル王手で迎えた小椋藍が2位でフィニッシュし、念願の世界チャンピオンに輝いた。 【この記事の写真】チャンピオンを決めたタイGPと今季の戦いをプレイバック…移籍会見で見せた晴れやかな表情、クールな小椋がさすがに嬉しそう!な勝利直後の秘蔵ショット、同門でタイトル争いしたガルシアとの関係は… 日本人の世界王者は2009年の250ccクラス(現Moto2クラス)の青山博一以来、15年ぶり7人目。小椋は00年にはMoto3クラス、22年にはMoto2クラスでタイトル獲得のチャンスがあったが、いずれも最終戦決着でタイトルを逃してきただけに、まさに3度目の正直で手にした世界タイトルだった。 やっと手に入れた世界チャンピオンの称号。レースを始めてから一度も泣いたことがないという小椋は、赤旗中断でチャンピオンが決まったとき、ヘルメットの中で目に涙を浮かべた。そして表彰式が終わった後の表彰台で、父・正治さんからスマートフォンを受け取ると、小椋は人目をはばからず涙を流すことになった。 その電話は日本でテレビ観戦していた母・香織さんからの祝福で、画面には涙にくれ言葉がでない母の姿。小椋は「なんでかわからないけど涙がでちゃって……。母親ってそういう存在なんですね」と涙を振り返る。 香織さんは「藍のチャンピオンが決まるかどうかなんてレースは、(あまりにもドキドキして)サーキットで見られない」と日本に残り、サーキットには正治さんと姉でオートレーサーの華恋さんが駆けつけていた。
家族の支えあってのレース活動
小椋が最後に泣いたのは2014年、中学1年生のときだった。その年の暮れに小椋はマレーシアで行われるアジアタレントカップのオーディションを受ける予定になっていた。アジアタレントカップとは「アジアのライダーをグランプリへ」を目標にホンダとドルナが14年にスタートさせた育成シリーズで、その年は現在Moto2クラスに参戦する佐々木歩夢などが出場していた。 当時、国内のミニバイクレースで敵なしの速さで世界チャンピオンを目指していた小椋にとって、「アジアタレントカップにいけるかどうかが全て」だった。だがそんな折、タイ選手権に参戦していた華恋さんが転倒して大けがをする。その治療費が高額だったこともあり、両親からは、マレーシアのセパンで行われていた「タレントカップのオーディションには行けないかも知れない」と言われ、悲しくて泣いた。人生で初めての涙でもあった。 その後、両親は華恋さんの治療費を工面しながらも、なんとか小椋をタレントカップのオーディションに送り出す。そして見事、合格。そんなこともあり、当時から小椋は「僕には勉強のシーズンなんてないです。一戦一戦が勝負」と口癖のように語っていた。そして育成シリーズからホンダチームアジアのMoto3、Moto2クラスへとステップアップ。両クラスでチャンピオン争いに加わり、今年は初めてプロライダーとしてスペインのMSIに移籍した末のタイトル獲得だった。 「欲しいものは練習用のバイク。それを運ぶかっこいいトランポくらいかな。クルマも時計もおしゃれにもまったく興味がないしどうでもいい」という藍にとって、何よりも手に入れたかったのが「世界チャンピオン」という称号だった。 今年のMoto2クラスはオフィシャルタイヤがダンロップからピレリに変わった。その点において、チームにとってもライダーにとってもイコールコンディションといえるシーズンで、タイトルを獲得したのはだれよりもバイクに乗ってトレーニングに励んできた小椋だった。 「やっとたどり着いたという感じ。今日は藍が世界チャンピオンになるのを見たし、次に見たいのはMotoGPで走る藍の姿ですね」 次なる挑戦をも支えていくであろう正治さんは、仕事が休みの日は姉弟のためにサーキットに通い、いまでも小椋の練習の日は仕事を休んでメカニックを務める。最終戦バレンシアGPにはチャンピオン表彰式と、最終戦の後に行われるMotoGPの初走行を見るために家族全員でかけつける予定だ。 そんな父に「いっぱい稼げるようになったらプレゼントしたいものがある」と語る小椋がいま楽しみにしているのは、残り2戦のマレーシアGPとバレンシアGPでどんな走りができるのかということ。
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