「エディオンピースウィング広島」専門家はどう見た? 期待される平和都市の新たな“エンジン”としての役割
対して、2階席はしっかりとピッチ全体が見下ろせる約35度の急勾配のスタンドになっています。ピッチまでの距離の関係か、他の同程度の勾配を持つスタジアムと比べてもピッチを真上から見下ろすような迫力ある観戦体験が得られます。
サポーター席となるエンドスタンドは1スロープの一体感のある観客席になっており、ゴール裏の熱狂がスタジアム内を満たします。ノエビアスタジアム神戸やユアテックスタジアム仙台のように観客席を覆う屋根には、歓声を屋根からピッチに降り注ぐような効果があるともいわれており、サポーターの応援を選手に届ける工夫が凝らされた観客席となっています。
ホスピタリティを高めた観客席も豊富です。コンコースに沿って随所に設けられたテーブルシートやラウンジシートのほか、バックスタンドの一部を可動観客席にして収納することで、一時的に多様な観客席を設けられるスタジアムテラスなど国内初の仕掛けも設けられ、将来的な変更にも対応したフレキシブルな計画となっています。
スタジアム全体を通じて、何を見せたいのか、どういった観戦体験を提供したいのかがハッキリとした観客席計画となっており、ベテランサポーターから初観戦者までさまざまな観戦スタイルを選択できるスタジアムになっています。最近のスタジアムでは新規来場者を増やすためにライトサポーターを集めるような計画が増えてきています。今回の新スタジアムのような古くからのサポーターも満足できるような徹底した計画は、今後のスタジアム計画において改めて重要な視点となると思います。
街の“エンジン”となるスタジアムへ
今回の試合観戦から帰る際に周りから「市民球場があったころはこんな風に歩いて帰りよったねえ」との言葉を耳にしました。もともと多くの市民を毎週末集めていた広島市民球場ですが、マツダスタジアムとして広島駅側に敷地移転したことで、広島の中心市街地の人流は大幅に変わりました。「ひろしまゲートパーク」をはじめとした市民広場や公園整備などが進んでいましたが、長年、旧広島市民球場が培ってきた人の流れと街の構造がうまく生かせないままだったように思います。今回の新スタジアムができたことでやっと“エンジン”が組み込まれたような印象です。