トルコリラ急落で円高になる理由とは?
8月入り後にトルコリラ(以下、TRY)は一時30%近い下落を記録しました。目下のUSD/JPYは米国株の下落が小幅に留まるなど、投資家の不安が抑制されていることもあってわずかな円高に留まっていますが、TRYを中心に新興国通貨が不安定な動きを続けている間は、円高のリスクが高いと考えておいた方が得策でしょう。
「経常赤字・高インフレ国」の通貨が売られる局面では、「経常黒字・低インフレ国」の通貨が買われる傾向
通貨変動の基本パターンとして「経常赤字・高インフレ国」の通貨が売られる局面では、その対極にある「経常黒字・低インフレ国」の通貨が買われる傾向にあります。リスクがとれる平時において、おカネは経常黒字国から赤字国へと流れますが、これは低インフレ(≒低金利通貨)から高インフレ(≒高金利通貨)へのフローと概ね同義です。事実として、経常黒字国(経常赤字国)は低インフレ(高インフレ)の傾向にあり、低インフレの国の通貨は基本的に低金利だからです(図参照)。 そうしたフローはリスク回避の局面において停止ないしは逆回転を始めることから、結果的に「経常赤字・高インフレ国」の通貨から「経常黒字・低インフレ国」におカネが還流することになります。ここでいう「経常赤字・高インフレ国」はトルコ、南ア、ブラジル、インド、インドネシア等が該当し、極端な例としてはアルゼンチン、ベネズエラが挙げられます。反対に「経常黒字・低インフレ国」は日本とスイスが代表的であるほか北欧諸国が該当します。 ここでTRYが暴落する直前の8月9日を起点に13日までの主要通貨パフォーマンスを計測すると、こうしたパターンが今回もあてはまっていることがわかります。主要23通貨のうち上昇したのはJPY(+0.34%)とCHF(スイスフラン、+0.02%)のみです。現在のところパニック的な売りは政治的対応のまずさが嫌気されたトルコ(TRY)に限定されていますが、今後、他の経常赤字・高インフレ国通貨に飛火したりすれば、USD/JPYの円高が一段ときつくなることも想定されます。しばらくは円高を警戒すべき時間帯と言えます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。