「歯医者に行ったら歯が悪くなった」“年に1回の歯科検診”思わぬ落とし穴
“その場しのぎ”では意味がない
国が補償してくれる範囲というのはまだ詳細に発表されていません。私たちが予防を行う際には、様々な検査を時間と費用をかけてしっかりと行った上で、その結果リスクとなる事柄を理解してもらい、長期的に改善と維持をしていくものです。 1年に1回、さらっとした検診とその場しのぎの治療を行うことでは患者のお口の健康を責任を持って守ることはできません。もし、患者さんが1年に1回の検診とその治療のみで来院されたとしたら、最初から患者さんのお口の健康を維持するという責任を果たせないことがわかっているのに、受け入れてしまっていいのだろうかという疑問もあります。しかし、1億人以上もの人がいれば、それだけ沢山の生活、考え方や価値観が存在しているものです。 これは歯医者のエゴだと感じる人もいるでしょう。 1年に1回のさらっとした検診と“その場しのぎ”の治療では責任を負えないと感じる歯科医院は、国民皆歯科検診は行いたくないと拒否をするかもしれませんし、どんどん検診で疾患を見つけてすべてのむし歯を治療したいと感じる歯科医院は、積極的に集客を行うかもしれません。 患者さんにとって、歯科医院の選択が今よりも難しいものとなることが考えられます。
国民皆歯科検診の正しい利用法とは?
私は国が歯科に対して積極的な考えを示しているのはとても良いことだと思います。 しかし正直なところ、内容はしっかりと考えたものにしてほしいなと感じています。歯科医師を含む国民の間違った理解を生み出しかねないからです。 そして、こうした施策が行われる今だからこそ、国民のみなさんもしっかりと歯科について学ばなければなりません。 かかりつけの歯科医院は、できることならば国民皆歯科検診が始まる前に見つけておくのが得策です。定期的なお口の管理を信頼のおける歯科医院で行っている中で、1年に1度国が負担してくれる検診をどう活用するか、その歯科医師としっかりと相談をして考えることで、間違った理解、間違った治療を生み出すリスクは限りなく減るはず。 そうすることで、国民皆歯科検診は国民の声で、全ての人が平等に質の高い予防医療を受けられる最善のものに進化していけるのではないかと思います。 みなさんの身体の管理者はみなさん自身です。自分の健康のために必要な手段を学び、自分で健康行動を選択することが生涯自分らしく生きていけることに繋がります。国民皆歯科検診が始まる前に、自分の歯やお口にとっていちばん重要なことは何なのか、それを守るためにはどんな選択を自分はすべきかをぜひ今一度考えてみてください。 <文/野尻真里> 【野尻真里】 一般診療と訪問診療を行いながら、予防歯科の啓発・普及に取り組んでいる歯科医師です。「一生涯、生まれ持った自分の歯で健康にかつ笑顔で暮らせる社会の実現」を目標にメディアで発信をしています。X(旧Twitter):@nojirimari
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