「トランプとの交渉は可能だ、悲観するな」 政治学者が解き明かす
2024年12月24日発売の「Forbes JAPAN」2月号では、国内外の賢人たちによる「2025年総予測」を特集。第2次トランプ政権が発足する25年1月以降、世界経済はどうなるのか。また、加速する人口減少のなかで、日本経済はどう変化するのか。今年のノーベル賞受賞者ジェイムズ・A・ロビンソンをはじめ、マルクス・ガブリエル、石黒浩、川邊健太郎、JO1など国内外の研究者・経営者・アーティストなど各界の第一人者にインタビュー。そこから見えてくる未来から、今を生きる私たちにとっての「希望」を描き出す。 分断が進み、保護主義が勢いを増すアメリカ、それに翻弄されかねない世界の国々。トランプ勝利の受け止め方やイーロン・マスクの政治介入の思惑、そして政治の失敗を回避するための方法を、気鋭の政治学者に聞いた。 「世界の行く末を悲観する必要はない。トランプとの交渉は可能だ」 こう話すのは、オックスフォード大学で比較民主制度論を研究する気鋭の政治学者、ベン・アンセル教授だ。米国と積極的にディール外交を展開すべきだという。『政治はなぜ失敗するのか 5つの罠からの脱出』(砂原庸介・監訳、飛鳥新社)の著者でもある同教授に話を聞いた。 ──トランプ勝利の要因をどうみますか。 ベン・アンセル(以下、アンセル):米連邦議会襲撃事件や複数の刑事事件での起訴にもかかわらず、なぜ勝てたのか。答えは米国の「二極化」にある。米国では左右の二極化が進み、共和党と民主党の支持層は、基本的にそれぞれ有権者の47%だ。つまり、大統領候補者は残り6%の無党派層の票を求めて戦うわけだ。 その無党派層がトランプに流れた理由は景況感にある。大半の人々は民主主義制度や法の支配など気にかけない。米国は二極化しているからこそ、「重要なのは経済だよ、愚か者」となる。人々はインフレを嫌う。トランプには、まず物価を下げてほしいと望んでいるはずだ。 次の要因は移民に関する秩序だ。バイデン政権の不法移民対策は後手に回った。米国人の大半は、不法移民の強制送還と移民の大幅減を望んでいる。 有権者はトランプにリベラル派をたたきのめしてほしいのか? たぶん、「ウォーク(意識高い系)」文化を後退させてほしいと感じているだろう。(多様性推進などの)ウォーク政治への反発がトランプの勝因だとは思わないが、無党派層は、世の中が一方向に進みすぎていると感じている。 ──トランプ次期大統領は過激な発言で米国社会の分断を加速させた、という批判があります。『政治はなぜ失敗するのか』によると、米連邦議会では1970年代以降、分断が進んだそうですね(第3章)。 アンセル:分断が深まる要因の一つが、米大統領選本選前の予備選だ。各党に大きな関心をもっている有権者が対象のため、極端な候補者が増える。 2009年に始まり、しばらく続いた草の根運動「ティーパーティー(茶会党)」など、5~6年前までは、ほぼすべての運動が共和党の右傾化によるものだった。一方、ここ4~6年で民主党も左傾化した。 ──教授は著書のなかで、「強いリーダーシップ」を称賛する欧米ポピュリストの台頭について触れています(第4章)。 アンセル:昨今、ポピュリズムが人々の支持を得ている理由として、まず、冷戦の終結が挙げられる。ソ連という明確な敵がいた時代には、米英仏独などで、反体制・反政府を掲げるポピュリズムは起こりにくかった。また、ポピュリズムの台頭には、この20~30年間、冷戦終結でグローバル化が進み、国際エリートが世界を牛耳っているという認識が影響している。