80年代末に異彩を放ったバンド・千年コメッツの謎、高鍋千年とハリー吉田が語る再結成
若さに任せてやってるわけじゃなくて、普遍的な美学を追求していたバンドだった
―3月のライブの公式切り抜き動画を2曲拝見したんですけど、あの短い動画だけでも、高鍋さんは現役のバンドのボーカリストと遜色ない、ブランクを感じさせない歌声に思えました。現場ではどのように感じましたか。 ハリー:思った以上にというか、人生のいろんな経験を経て、もしかしたら前より良くなってるんじゃないかと思いました。もともと、やってる音楽が若さに任せてやってるわけじゃなくて、普遍的な美学を追求していたバンドなので。時を越えて蘇ったという以上のものは、高鍋にもあったんじゃないですかね。 高鍋:いや、そう言ってもらうのは大変ありがたいんですけど、後になって録画した映像を見ると、「ああ、全然声が出てない」とかっていう気持ちはありました。やっぱりミュージシャンだし、「もっとできるのにな」っていう気持ちの方が強かったです。ただ、30年間まったく音楽をやってなかったわけではなくて、どうしてもどこか心の中に沸々とする青い炎みたいなものがずっと燻り続けていたようなところもあって、会社員をやっていても居心地の悪さはずっとあったんですよね。音楽の世界からは離れてしまったんだけど、他のことで稼いで生きていかなくちゃいけないっていう現実がどんどん近づいてくると、どこかで「やっぱり自分はここにいる人間じゃないよな」という疑問も感じていたんです。そんなときにたまたま声を掛けてもらって、自分としてはそんなに深い意味で返事をしたわけではなかったんですけど、やっぱりそういう気持ちが残っていたんだと思うんですよね。だから周りが「またやろう」って言ってくれたんだと思っています。 ―実際ステージに立ってみて、お客さんの反応を見ていかがでしたか。 高鍋:「ずっと待ってたよ!」みたいなウェルカムな感じだったので、嬉しかったです。基本的に千年コメッツファンの方が来てくれたわけで、すごく温かい空気だったのでやりやすかったし、歌いながらふと昔のことを思い出しながら、「今、もしかしたら俺がやりたかったところにいるのかな、やっぱりこれだよな」って感じました。認められているという充実感もあるし、居心地も良かったし、もちろん現実になるとまたいろいろあるんですけど、特別な空間だったし、「目が覚めた」みたいなところもあったかもしれないですね。 ―千年コメッツって当時からすごく謎めいたバンドだった気がします。今回の再結成を知ったときにも、失礼ながら「そういえば千年コメッツってどんなバンドだったっけ?」と思って、ネット上を調べてほとんど情報が出てこないんですよね。改めてお訊きしたいんですけど、そもそもどういう経緯でデビューしたバンドなんですか? ハリー:僕が1985年にCBSソニーのオーディション福岡地区大会で高鍋を知って、そこでスカウトしたんです。それが僕のディレクターとしてのスタートでもあったんですけど、当時はディレクターという仕事を超えた部分があって、僕にとっても高鍋にとっても千年コメッツが人生の転機になったと思います。 ―高鍋さんのデビューに当たって結成されたプロジェクト・バンドだったわけですか。 高鍋:そうです。オーディションを経て、僕がデビューするためにハリーさんが、「こういうメンバーがいいんじゃないのかな」とかいろいろ考えて動いてくれて作られたバンドです。僕は当時、日本のロックはそんなに聴いたことがなくて、実際カルメン・マキ&OZ(シゲ、チャッピーが所属)も正直そんなに聴いたことがなかったんですけど、会ってみたら僕より全然年上ですし、日本のロックの創成期から活躍している方々で、結構刺激的でしたね。シゲさんたちもやる気満々で、「もう1回やるぞ!」みたいな勢いも感じられたんです。だから僕が「この人とやりたい」って積極的に探したというよりも、ハリーさんが考えたメンバー構成で、最終的に収まるところに収まったって感じですかね。 ―それが千年コメッツというバンドになったと。ハリーさんとしては、どういうコンセプトのもとに考えていたのでしょうか。 ハリー:ロックでソロっていうのはなかなか難しいなと思ったんです。まあ、本田恭章さんとか吉川晃司さんとか何人かはいましたけど。やっぱりバンドが売りやすいなと思っていたし、ただ若い同世代のバンドとは違って、高鍋が持っている官能的な部分とか、例えばブライアン・フェリーやデヴィッド・ボウイとか、日本で言えば沢田研二さんみたいな、華があって美学のあるロックスターにしたいなと思っていたんです。リズム隊に関してはもう最初から決めてました。ギターも僕が選んだんですけど(長井CHIE)、女性のギタリストにした方がかっこいいなと思ったんですよね。今でこそバンドに女性ギタリストがいるのって当たり前ですけど、当時は新鮮だったんです。たまたまCHIEちゃんのキャラもハマって、音楽的にもパフォーマンスにも素晴らしかったです。それと、こういうプログレッシブな音としてはキーボーディストが必要だっていうのはこだわりだったので探して若いキーボーディスト(海老ヨシヒロ)を加えて、ビジュアル的にも高鍋を真ん中に据えたときに絵的に映えるので、こういうメンバーになったんです。サウンド的にもMVも、先ほどおっしゃった通りに実態があまりない「謎のバンド」みたいなイメージではあったんですけど、じつはデビュー前からライブの評価はすごく高かったんです。それが時が経って、謎のバンドみたいなイメージになってしまったので、ライブの印象がもうちょっと前に出ていればまた違ったのかなと思います。