「平和愛する国なのに」なぜ日本は入国拒否?悪名高い収容所「グアンタナモ」に14年拘束、嫌疑晴れたベストセラー作家は「許しと和解」を訴える
グアンタナモには最大時約780人が収容されたが、大半はテロと無関係とされてスラヒさんのように母国か第三国に送還された。今年1月末の米ニューヨーク・タイムズ紙によると、今も30人が残る。 心的外傷後ストレス(PTSD)に今も苦しむスラヒさん。それでも虐待に携わった人や米国を「許す」と言う。理由は、「憎しみに支配されるのではなく、許し、和解することで新たな人生を開く」と決意しているから。支えはグアンタナモでの体験だ。 「(解放されるまで)私の側に立ってくれた人も、拷問した人もイスラム教やキリスト教などさまざまな宗教を信じる、多様な人だった」 世界ではロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘など紛争が絶えない。 スラヒさんはオランダを拠点に欧州各地で人権啓発のシンポに参加、交流サイト(SNS)も通じて、自身の思いを伝えている。平和関連の受賞歴もある。日本で自身の体験を基に、紛争が相次ぐ世界の和解について講演する予定だった。
▽理由明かされず 外務省は、なぜスラヒさんのビザ発給を拒否したのか。 取材をすると、外務省外国人課の担当者は「厳正な審査をしてビザ発給事由に当たらないと判断した」とだけ説明した。 ビザ発給が拒否されるのは、一般的に(1)過去に懲役1年以上の犯罪歴がある(2)日本の利益または公益を害する恐れがある―などがあるが、理由は明かされない。 講演を企画した一般社団法人「刑事司法未来」代表理事で龍谷大の石塚伸一名誉教授は、外務省の対応についてこう話す。 「英仏も自由に移動できるのに日本政府はどうしてビザを発給しないのか。テロリストの烙印を押し、米国に忖度しているのではないか」 スラヒさんも無念さを隠さない。「日本は『自由で民主的で平和を愛する』国というイメージがあっただけにビザを得られず、日本に行けなくなって落胆している。日本政府がまだテロリストとして私を疑っているのかもしれない」
さらにこう続けた。「紛争が後を絶たない世界で、宗教や国の立場を超えて平和を築く方法について、日本の次世代の若者たちと語り合うことを楽しみにしていただけに本当に残念だ」