IT系フリーランス男性を追い詰めた役所の非情 「自力で部屋を借りる事がこんなに難しいとは」
■住まいを失うだけで、まさか自分がここまで落ちるとは マサルさんは高校卒業後、金属加工機器メーカーに就職した。プログラマーとして働いた後、独立。ネット上のプラットフォームができてからは、毎月の収入は30万~40万円と安定していた。趣味はロードバイクで、当時は200万円以上する海外ブランドのバイクを複数台持っていた。それらはすべて生活保護の利用前に二束三文で手放したという。 それまでお金に困ったことはなかったというマサルさんはこの間の出来事をこう振り返る。「内見もしないで業者と契約してしまったのは自分のミスでした。でも、あのときは藁にもすがる思いだったんです。自力で部屋を借りることがこんなに難しいとは……。ただ住まいを失うだけで、まさか自分がここまで落ちるとは想像もしていませんでした」。
穏やかで知的な印象だったマサルさんが珍しく乱暴な口調で吐き捨てた。「この国の住宅政策はクソですよ」。 話はずれるが、マサルさんが困窮状態に陥るきっかけとなった定期借家制度は、不動産業界側の後押しで2000年に導入された。それまでは契約終了後も保障された借家人の居住権が自動的に消滅する。いわゆる規制緩和政策のひとつである。 また、フリーランスに関していうと、経済産業省の「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会」の提案などを読むと、国はフリーランスという働き方を増やそうとしていることがわかる。彼らは労働関連法の保護からは原則はずれるので、これも規制緩和の流れの一環といえる。
個別の政策の是非はいったんわきに置く。しかし、規制緩和をするなら、それに応じたセーフティネットの整備は必須だ。特に住まいの喪失はときに人間の命をも脅かす。実際、マサルさんは真冬の路上に放り出される直前まで追い込まれた。定期借家を認める一方で、低所得者向けの安価な物件や公営、市営住宅の供給を増やすといった「ハウジングプア(住まいの貧困)」解消のための政策が置き去りなのはいただけない。フリーランスを「よくわからない仕事」などと言って排除する大家には教育も必要だろう。