「インバウンド批判」は勘違いだらけ…メディアがつくりあげた「大阪・黒門市場」の悲痛な叫び
振興組合の問題点
ただ、組合にも問題がないわけではないと、國本さん。 「黒門市場のお店はだいたい9時~17時で営業しています。理事会はだいたいその後なんですよ。不公平の無いようにそうなってるのですが、やはり自分の店の仕事が忙しい中、夜となると大変です。理事会には、たくさんは来ないんですよね。だから、本当はもっといろんな意見を出し合ってやっていければいいなと思います」 また、もうひとつの問題が「組合に強制力が無い」ことだ。 商店街は、基本的にそれぞれの地主が地権者であり、それぞれの店主に対する強制力は、当然持っていない。それがマイナスに働いてしまうのだ。その最たる例が、「適正価格での販売」だ。 振興組合は、特にコロナ後に入居してきた店舗に対して組合への加入を呼びかけると共に、商品の「適正価格での販売」などを呼びかけている。 「でも、それはあくまでもこれはお願いベースで、強制力は無い。本当は入ってくる店のバランスも考えたい」と理事長の迫さん。
牛串屋を真っ先に始めた店
近年、インバウンドを対象とした多くの観光地で見かける機会が増えた「牛串屋」も、これでもかというほど黒門市場を占拠する。この事情も國本さんに聞いてみた。 「もともとは、何軒かの精肉店はありました。今でもそのうちのいくつかはあります。ただ、最初に牛串を始めたのは、マグロ屋の隣にあったある精肉店やと僕は思ってます。そのマグロ屋は、座席を作ってマグロ丼を食べられるようにした。そしたらそこが流行り出して真っ先に人が並ぶようになった。まだコロナ前のことです」 「でも、その隣にある精肉店は、ただの肉屋だったので並ぶこともなかったのを、このマグロ屋さんが「焼いて食わしたらええねん」と言った。それでこのお店は神戸牛を扱っていたんですが、それを焼けるようにショーケースに並べたら、すごい人気が出た。しかも、高い肉から売れ出した。 そこからやと思います。あちこちの店が『神戸牛』を売りにして、同じように肉を焼いて売り出した。それをメディアが取り上げて、新しく入るお店も牛串の店が増えていきました」 ただ、こうした新期店の多くは、ただ牛串を出しているところもあるようで、「精肉店が牛串を出すのはわかるんですよ。でも、新しいところは肉に何も関係なく、ただ牛串屋を持ってくる」と迫さん。 そして「本当は、新しいテナントには八百屋とかに入ってきてほしいんやけど、やっぱり野菜だけでは高い家賃を払えない。もう圧倒的に飲食に偏ってしまうんです」と寂しげな表情で付け加える。 こうしたテナントの問題は、迫さんが述べたように、黒門市場の地価にも大きな影響を受けている。では、黒門市場の地価がどうして上がってしまったのか。後編『「土地が高くなりすぎて」…黒門市場がインバウンド観光地になるしかなかった「悲しい理由」』では、その歴史を黒門市場の歴史から紐解き、現在の市場が置かれたインバウンドとの複雑な関係性に迫る。
谷頭 和希(都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)