「インバウンド批判」は勘違いだらけ…メディアがつくりあげた「大阪・黒門市場」の悲痛な叫び
勘違いが絶えないSNSの投稿
迫さんは自身でも黒門市場内のお店を経営しているが、こうしてメディアが報じる姿は、黒門市場の一側面しか映し出していないと言う。 「確かに、インバウンド観光客が増えてそういうお店も出始めました。でも、どちらかといえば、昔からここで商売を営んでいる店の方が多い」 一部報道では、コロナ禍の際に市場内に増えた空き店舗に外国人経営者が店を構え、「ぼったくり」とも称される値段で商いを始めたとも言われている。 実際のところはどうなのか。迫さんが続ける。 「お店は全部で150店舗あるけど、外国人経営者の店は、全体で10店舗ぐらい。それぐらいなんです。『ぼったくり』と言われる店は組合に入っていないところもあるんですが、それも25店舗ぐらい。 もちろんその25店舗の中でも普通の営業をしているところもあります。そして、残りの約125店舗は組合に入っている。それらの店の多くは、インバウンド関係なく、以前からの商売をずっと続けていますよ」 実際に私も市場の中を歩いてみたが、よくメディアで取り上げられるような高額な商品ばかりがある、とは感じなかった。 「SNSではぼったくりや、という言葉が無数に出てます。でも、勘違いした投稿も多いんです」と國本さん。 「黒門市場の中にハンバーガー屋がある。そこで『ハンバーガーの値段が高い、さすが黒門』みたいに書かれた。確かに3650円で、僕なんかが見てもちょっと高いな、とは思う。でも、そこはチェーン店で日本全国に店があるんですよ。 だからどこでも値段は同じなんです。しかもそこはハラル神戸牛(屠畜から調理・加工の過程でイスラム教の戒律を守って作られている神戸牛)を使っていて、味の評判はとてもいい。ちなみにハラル神戸牛は非常に高価で、調べてみたら同じ分だけ肉を使ったら本当は9000円ぐらいが望ましいとわかりました」
地元の人のための取り組みは無視される
SNSでの投稿や、メディアの報道と反し、黒門市場の中には、地元の人がほとんどのスーパーもある。 「黒門中川さんね。魚の種類も多いし、奥には惣菜もあるしね。それに24時間営業やからミナミの飲み屋で働いている人も仕事帰りに寄って帰ったりするんですよ。だいたい地元の人間だったら、黒門市場の中で『魚はここ、野菜はここ』、とわかるんですよ」 このように、ローカルな側面も持つ黒門市場だが、メディアではこれらの側面はほとんど紹介されてこなかった。 「メディアでは、地元の人も大事にしているよ、こういうこともやっているよ、という取り組みを取り上げてくれたことがない」と國本さん。 例えば、商店街振興組合は、地元の人のためのイベントも行なっているという。 「毎年、夜店を出すイベントをやっているんです。組合の青年部が主体になって、店が終わったあとに準備して、スイカやかき氷なんかをお店の値段の3分の1ぐらいで販売する。 お店の従業員の人も手伝いに来てくれて、みんな地元のためや、と無報酬でやってくれる。子どもさんを中心に、すごい人気です。何年もやっているので、当時子どもだった人が大人になって自分の子どもを連れてきたりね。その時は当然、ほとんどが地元の人ですよ」 また、振興組合では、歳末大売り出しなども計画し、地元の人のための催し物を行い続けている。さらに、市場内のゴミ箱や公衆トイレの管理なども行い、そこにやってくる人が気持ちよく市場を使えるように整備をしている。 振興組合は、黒門市場内のそれぞれの通りから2年に1度の選挙で選ばれ、計30人が理事を務める。インバウンドへの対応などで方向性が分かれることはないのか。理事長の迫さんが言う。 「向いてる方向は同じです。商店街全体がバランスよくにぎわうためにはどうしたらいいのか。ただ、そのやり方をどうするのか、なるべく商店街のにぎわいが地元の人に還元されるといいよね、とみんなで検討しています」