彦根の胃袋支えた「喫茶スイス」の半世紀、ファンが写真集に 滋賀
ハンバーグステーキ500円、オムライス400円――。2022年5月に閉店するまで半世紀にわたって破格の安さで食事を提供し、大学生やサラリーマンの胃袋を支え続けた滋賀県彦根市の名店を記録した写真集「喫茶スイス 1972―2022」(B5判、108ページ)が出版された。28日から12月1日まで、彦根市芹橋2のあしがる出版社内で同書の写真などの展覧会も開催する。 【写真】玄関には大量のツタ 客は葉を潜るように店に入った 自身も学生時代に足しげく通ったという県立大の川井操准教授(建築学)の編著で、「みんなが通ったあの『スイス』を彦根の記録として残したかった」と話す。 スイスは、岐阜県出身で滋賀大を卒業した店主、伊藤共栄さんが、いったん会社員となった後、兄弟全員が個人事業主だったことから自らも独立して事業を起こしたいと、喫茶店ブームだった1972年に開店。その後、喫茶というスタイルが次第に廃れるなか、食事中心の店として営業を続けた。 川井さんが同書で「スイスの代名詞」と語るハンバーグステーキとオムライスも開店当初から提供し、オイルショックで物価が高騰していた1977年に一度価格改定をしたきり、閉店まで値上げをしなかった。営業時間は当初は午前8時から翌日の午前2時まで。早朝から深夜まで多くのサラリーマンや学生が訪れ、にぎわった。伊藤さんの年齢などから閉店となったが、最後の1カ月間は名残を惜しむ全国からのファンが長蛇の列をつくったという。 川井さんも県立大大学院生だった2000年代に常連客だった。タバコの煙が充満する店内で、オーダーの声が飛び交い、ジュ、ジュという音とともに鉄皿に乗せられたハンバーグステーキが運ばれてくると「至福の喜びを感じた」と語る。 閉店後、取り壊される直前の同店を目の当たりに建築学の立場から、ツタに覆われた店の外装や、厨房(ちゅうぼう)を囲む曲線のカウンター、屋根裏部屋を感じさせる2階席など、愛された建物をせめて写真で残したいと、旧知の写真家、金川晋吾さんとともにカラー84ページ、白黒24ページの写真集に仕上げた。写真の他、川井さんによる伊藤さんへのロングインタビューや、ゆかりのある大学教授、建築家、古書店店主らのエッセーも載せている。3520円。本の購入はメール(info@ashigaru-publisher.com)で受け付けている。 展覧会(入場料100円)の時間は午前11時~午後4時。写真の他、スイスに残されていた備品なども展示する。30日午後2時半~4時には、川井さんと古書店店主の御子柴泰子さんによる出版記念トーク(参加費1000円)もある。問い合わせは同出版社(070・1545・3724)。【西村浩一】