オアシスの再結成と新型コロナの研究シーン【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
■「次のパンデミック」に備えるために必要なこと 「『次のパンデミック』に備える」とは、最近の感染症業界でシュプレヒコールのように唱えられるフレーズである。どんなウイルスがその原因となるのか? それはまだ誰にもわからない。しかし、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、そして新型コロナウイルスと、21世紀に入ってから新たなコロナウイルスが3度も出現し、そのたびにアウトブレイクを引き起こした歴史を考えれば、次のパンデミックがまったく未知のコロナウイルスによって引き起こされる可能性は十分にある。 にもかかわらず、新型コロナの研究シーンにおいても、SARSやMERSの場合と同じような兆候が見え始めている。研究予算の急減に伴う、研究者人口の減少である。このままでは、新型コロナパンデミックによって勃興したコロナウイルス研究も、一過性のブームに終わってしまい、ムーブメントは尻すぼみになってしまうかもしれない。そこに、「次のパンデミック」につながるリスクがあると考えられていても、である。 果たして(新型)コロナウイルス研究は、確固たる研究シーンを生み出すことができるのか? それを成し遂げるには、誰かがスターダムにのし上がり、ムーブメントを起こし、確固たる研究シーンを生み出すしかない。 「一発屋」で終わらず、ムーブメントを起こし続け、研究シーンを継続すること。それこそが「次のパンデミック」に備えるために大切なひとつの要素であるのは間違いないと思っているのだが、そのためには何が必要になるのだろうか? 世界の研究者たちと連携すること? 感染症研究の重要さや大切さを目に見える形で一般の方々にアピールを続けること? それらはもちろんわれわれウイルス学者の使命だと思っているのだが、はたしてそれだけで充分だろうか? まったく別の世界のことではあるが、音楽シーンで歴史を作ったオアシスの再結成を目の当たりにして、重ね合わせて考えてみたくなった。 ――しかしやはり、それにしてもオアシスである。 デビューアルバムの1曲目で「今夜の俺はロックンロールスターだ(Tonight, I'm a rock 'n' roll star)!」と歌いのけ、ムーブメントを巻き起こしてから30年も経つというのに、「再結成」というだけでこれだけ世間がざわついてしまうあたり、世界的なスーパースターはやはりスケールが違う......。 文・佐藤 佳 イラスト/PIXTA