海運王から鉄道王へ ウォール街で鉄道株買い占め ヴァンダービルト(上)
コーネリアス・ヴァンダービルトは、あまり裕福ではない農家の出身でしたが、家計を助けるため6歳から働きに出ていました。南北戦争のころには海運の覇者となり、やがてウォール街で鉄道株を買い占めて鉄道王に登りつめ、米国の鉄道史を語る上では欠かすことのできない人物となっています。70歳のころあいでウォール街デビューとやや遅めながら、革創期の帝王ダニエル・ドルーとは最大のライバルとして敵対していきます。米国史上、最も裕福な投資家の最盛期を市場経済研究所の鍋島高明さんが解説します。
代金を支払わない相手は、訴訟ではなく商売で叩き潰す 海運界の覇者ヴァンダービルト
「その明晰なる判断力と絶倫の精神力とをもって次々と競争者を圧倒して、その努力とともに財産を増やしていった。彼の圧倒的な攻撃力は何びとをも屈従せしめねばやまぬ概(おもむき)があり、そのやり口はドルー(後出)の陰険さと反対に、正々堂々たる正攻法で、常に成功を収めていった」(熊田克郎著『ウォール街とアメリカ経済の発展』) ヴァンダービルトの剛毅な性格を物語るエピソードがある。ニカラグア航路の権利を売却したとき、その代金が払われないという事態に直面した。訴訟を起こせば、カネも日数もかかる。そこでヴァンダービルトは一通の手紙をぶつけた。森晋太郎『米国実業王苦心譚』によると、その文面は以下の通り。 「拝啓。貴社は拙者をたばからんとのご趣旨なるべし。拙者はあえて訴え申すまじく候。法律のごときは手ぬるく間に合い申さず。拙者は貴社をつぶし申すべく候」 ヴァンダービルトは新船をどんどん造ってニカラグア航路を格安運賃で運んだので、相手はたちまち破産してしまった。三菱の岩崎弥太郎が運賃の値下げ競争でライバルを次々となぎ倒し、海上王と呼ばれる例が想起される。 南北戦争(1861-1865年)のころには、ヴァンダービルトは海運界の覇者になったばかりでなく、その資産は1500万ドルに達し、アメリカ財界の最有力者に列せられる。