震災対応で世界への感謝足りなかった 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<9>
《2011年3月11日、駐米大使在任中に東日本大震災が起きた》 私はすべての予定をキャンセルし、この問題にかかり切ることにした。情報交換や支援要請の正式なチャンネルは東京だった。しかし米政府の意思決定者はワシントンにいる。国務省を中心に、ホワイトハウス、国防総省、エネルギー省などと毎日何度も連絡をとった。国務省は何週間も泊まり込みのチームを編成した。ホワイトハウスの科学顧問は全米トップの原子力科学者と電話会談網をつくり、毎日大統領に報告するとともに日本に情報提供してくれた。 東京は混乱しており十分な情報が来なかった。在米日本大使館はいわばミニ霞が関で、各省庁からトップクラスの人材が派遣されており、彼らが東京から情報を収集し、大使室で連日、各省庁から出向している公使、参事官、書記官約20人以上と何度も打ち合わせをした。そしてオールジャパンの情報を持って米側と話し合い、その結果を待っていた皆に説明した。 さらに米国のテレビには連日生出演し、状況を説明した。このためにもミニ霞が関のチームが役立った。CNNのニュースショーに呼ばれた際、原発のメルトダウンの可能性について追及され、「いろいろ噂はあるが、確認できる情報には接していないので私からは話さない」と回答する場面もあった。 《自衛隊ヘリの原発への放水で米国が本腰を入れることになったと言われるがどうか》 私個人としては自衛隊員の勇気には感じ入っている。しかし言われるような話を米側から聞いたことはない。「日本自身が決めることだが、なぜ政府、自衛隊はもっと前面に出ないのだろうか」という感じを、多くの米国関係者はずっと持っていたように思う。これを乗り越えて米軍と自衛隊の関係はいっそう緊密化した。 米国民は大統領から議員、政府、軍、企業、学校、一般の方まで幅広く日本に寄り添おうと物心の多大な支援をしてくれた。小学生が誕生日のお祝いにもらった20ドルを持ってきてくれたりして感激した。 トモダチ作戦を現場で指揮した米司令官や兵士、米大使に日本国民の感謝が集中する。それはいいが、ワシントンで指示したオバマ大統領以下、米政府や米国民への感謝が足りない。これは私自身がもっと声高に主張すべきだった。じくじたるものがある。米国だけでない。あのとき世界中が日本を助けてくれた。日本はもっと謝意を表すべきだったと思う。