ダイドー、セブン、すき家、スシロー…物価急上昇の中、商品値下げ作戦の期待とジレンマ
消費者は実態以上に物価上昇を強く感じている。総務省によると、9月の全国消費者物価指数(2020年=100、生鮮食品を除く)は108・2となり、前年同月比2・4%上昇した。一方、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」では、1年前と比べた物価の変化について消費者は平均で14・5%上昇していると回答している。
今年の春闘では賃上げの動きが広がったが、物価の変動を考慮した実質賃金の低下は続き、消費行動を抑制している。厚生労働省の毎月勤労統計調査で実質賃金は今年5月まで過去最長の26カ月連続マイナス。6、7月はプラスとなったが8月は再び減少に転じた。総務省の家計調査によると消費支出もマイナス基調が続いている。
ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員は「生活必需性の高い商品で値上げ幅が大きいことが、体感として値上げを強く捉える要因となっている」と指摘。ただ、下請けを締め付けて価格を抑える企業の行為にも消費者の関心は高まっているといい、「無理なく低価格を実現するのであれば歓迎されるだろう」と話す。(桑島浩任)
◆SOMPOインスティチュート・プラスの小池理人(こいけ・まさと)上級研究員
賃金上昇以上に物価高が進み消費者の節約志向が高まる中、資金力のある大企業を中心に値下げが相次いでいる。
横並びで進んできた値上げの構図は崩れつつあるが、まだ消費者の反応をうかがう試験的な段階だ。ただ、成果が出れば合理的な戦略として追随が生じ、値下げ合戦に発展する可能性はある。客の奪い合いは経済全体のパイを小さくし、利益も減る。経営体力に乏しい中小企業なら、場合によっては倒産に追い込まれかねない。
一番の懸念は賃金への影響だ。企業利益が圧迫されれば賃金の原資も減る。2年連続の大幅賃上げを経て、サービス価格に転嫁できるかが注目点だったが、難しくなる可能性がある。
利益の確保にはコスト削減が必要だ。ただ取引先への価格交渉が必要になり、個々の企業が利益を出せてもマクロ的な(国全体の)経済は縮み、賃金と物価の好循環に水を差す。
企業の生産性が高まれば賃上げもできる。設備投資やリスキリング(学び直し)など企業の生産性向上を、政府がいかに支援するかも重要だ。(聞き手 田村慶子)