「夢や目標はない」と語る奥田民生が30年間ソロ活動を続けてきた理由
僕のやっていることは全部横道
そんな感じのまま、奥田さんはやがてミュージシャンの世界へと足を踏み入れていく。 「学生の頃はずっとそんな感じで、とくに目立つわけでもなくて。で、バンドブームが起こって、プロのミュージシャンになれそうなムードになって。 そうすると当然、プロの方たちはみんな僕より絶対すごいはずだ、って思いながら足を踏み入れるじゃないですか。だからそういう世界で僕も経験を積んですごくなりたい、と思っていたら、何かちょっとずつ『あれ、そんなに言うほど俺ってダメじゃない?』ということが出てくるんですよ。そうしたらまたやる気になるし、『こういうところは俺のほうが優れているんじゃなかろうか?』みたいなことも出てくる。そういうのが、少しずつですよ。少しずつありながら、今日まで来ているだけっていう」 そうして気づけば多くの人が、奥田さんにしか生み出せない独特のメロディや歌詞、パフォーマンスに惹き込まれ、やがては奥田さんの生き方そのものが一つのカルチャーとして確立されていったのだ。 「でも今言ったように、僕のやっていることは全部横道なんですよ。こういうの何て言うの? カウンターカルチャー? 亜流? でもそれって主流がないと成り立たないでしょ。だから主流が何をするかを、僕は実はめっちゃ見ていて。それでそうじゃないことをする、みたいなやり方だと思うんですよ。だからそこが難しいところだと思うんですよね。主流を良しとするまで理解していないとできないというか、『主流も嫌いじゃないけどね』って言ってないとムズかったりすることだから。 要するに全く王道じゃないということ。なのですすめられない。だから本とか出すなよって思ってるんだけど、出すもんだからさ(笑)」 しかし人々は、そのあえて王道ではないところにこそ惹きつけられてしまうのだろう。奥田民生になりたいボーイが、服にラーメンのしみをつけたまま『Mステ』に出てしまう奥田さんの姿を見て、「逆にカッコいい」と思ったように。 「これが、福山雅治さんがラーメンのしみをつけていたらたぶん炎上するんですよ。でも俺はしない、そこです。いや、そこですじゃないけど(笑)。だから気にしないでいいのはラクなんです。そこは王道じゃないことの醍醐味ですよ。ほとんど負けているけど、勝っていると言えるのはそういうことです。福山さん、すみません。他の方でも全然良かったんですけど(笑)」