<パリ五輪女子ボクシングの性別疑義騒動>IOCとIBAの「政争の具」に巻き込まれる選手、社会変容に適した冷静なルール議論を
「開かれた大会」をスローガンに掲げるパリ五輪で、女子ボクシングの2人の選手に関する性別の疑義が話題を集めている。 渦中にいるのは、アルジェリアのイマネ・ケリフ選手と台湾の林郁婷選手。2選手に関しては、国際ボクシング連盟(IBA)が「染色体の結果、2人は不適格であることが分かった」などとして女子選手の出場資格がないと主張する。一方、国際オリンピック委員会(IOC)はパスポートなどの公的文書を根拠として、出場資格を認めると同時に、ガバナンスなどの問題から五輪の競技運営権を剥奪したIBAを「IBAの検査は信用できるものではない」と批判する。 両者の対立と性別の問題が混合した情報の錯綜が、現在進行形で試合を行っている選手に対するSNS上の誹謗中傷を誘発する最悪の状況を招いている。
なぜ、判断が分かれたか
「私は女性です」 パリ五輪の女子ボクシング66キロ級準々決勝で判定勝ちし、銅メダル以上を確定させたケリフ選手は涙ながらに訴えた。ケリフ選手は7日の準決勝も勝利し、9日の決勝へ駒を進めた。林選手も同じく決勝へと勝ち進んだ。 ケリフ選手は自身の性別疑義をめぐり、昨年の世界選手権から翻弄されてきた。 大会の運営主体だったIBAが、男性のXY性染色体を持つ選手の女子競技出場を禁じる規定に違反したことを理由に失格とした。IBAは同じく、林選手が世界選手権で獲得した銅メダルも検査結果を理由に剥奪している。 2選手が、パリ五輪には出場できているのは、五輪の運営主体がIBAではなく、IOCだからである。
IOCは昨年6月、IBAについて、審判の不正疑惑や不透明な財政管理などガバナンス問題を理由に五輪競技を統括する国際競技連盟の地位を剥奪した。IOCはIBAが昨年の世界選手権で失格とした2選手についても、「恣意的な決定の犠牲者」としてパリ五輪の出場資格を与えた。パスポートにも女性と記されていることも根拠に示している。 波紋が広がったのは、ケリフ選手と女子66キロ級2回戦で対戦したアンジェラ・カリニ選手(イタリア)が開始早々、強烈なパンチをもらうと自らリングサイドに戻って棄権したことだった。カリニ選手は海外メディアの取材に対し、「鼻に強い痛みを感じた。あの瞬間には、自分の命も守らなければならなかった」と理由を語った。 海外メディアによれば、イタリアのジョルジャ・メローニ首相が「男性の遺伝的特徴を持つ選手は、女子競技に参加すべきではないと思う」とコメント。ケリフ選手に続く準々決勝で敗れたハモリ・アンナルツァ選手(ハンガリー)も「この出場者(ケリフ選手)が女性部門で競えるのはフェアだとは、私は思わない」と対戦前にSNSに投稿していた。