「名前を出せない方々に取材」して見えた人間の邪悪さ。半グレを題材とした『半暮刻』月村了衛×書店員座談会
■今後の主人公の人生については、第一部「翔太の罪」、第二部「海斗の罰」というタイトルが答えということにさせてください
──「号泣した」とおっしゃった広島 蔦屋書店の江藤さんをはじめ、多くの方が翔太について触れてくださっていますが、もう一人の主人公である海斗については、浦和 蔦屋書店の唄さんが「お仕事小説」という観点から読んだ、と感想を送ってくださいました。 唄:そうですね。海斗が悪であることは確かですが、周りも海斗を利用していたと私は思ってまして。海斗は真面目ゆえ努力をしていましたし、それを社会が利用したという側面もあるように思えます。そんな海斗のような人間を救えるとしたら、何が救いのきっかけになるんだろうな、ということをずっと考えてしまいました。 月村:おっしゃることはわかります。しかしながら、本作の出発点は海斗のような人間の邪悪さに対する怒りでした。もちろん、努力するということ自体は素晴らしいし、称賛されるべきことだとは思うんですが、他人を踏みつけにして出世していくことを努力と言われたら、それは違うだろうと。ですので、海斗のような人間に救いはなくていいのでは、と思いました。そういう意味もあって、終盤に翔太が発する一言を敢えて入れたんです。それが何なのかは、読者の方も読んで発見していただければと思います。 唄:そうだったんですね。私ももう一度読んでみます。お話をお伺いできてよかったです。ありがとうございます。 ──ここまで翔太と海斗という2人の主人公について語っていただきましたが、続いてはエンターテインメント小説という側面からご感想いただいたのが啓文社ゆめタウン呉店の三島さんでした。 三島:今回の『半暮刻』は現代の悪を描きながら、物語の終盤ではその国のトップでさえ、半グレなんじゃないかというところまで持っていかれたっていうところに戦慄を覚えました。同時に、本によって翔太が救われる話だったり、海斗がのし上がっていくけど、また転落する話とか、本日ずっと月村さんのお話を伺っていて、まったく隙のない小説だと知って、非常に感激しました。 月村:ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。 ──ここで、実際に店舗で本書を売っていただいている皆さんに、改めてこういう人に読んでもらいたいなど、一言いただければと思います。まずは芳林堂書店高田馬場店の江連さん、お願いします。 江連:先ほども申し上げたんですけれども、この作品は、現代社会の闇を描きながら、厳しい境遇にいる人にも目配りされているので、ぜひ、若い方だけではなくいろんな方に読んでいただきたい作品だなと改めて思いました。引き続き頑張って売ってまいりますので、よろしくお願いいたします。 ──ありがとうございます。続きまして、浦和 蔦屋書店の唄さん、よろしいでしょうか。 唄:はい。創作秘話を聞かせていただいて、また改めて読み直したいなと思いました。ディティールとリアリティのバランスがすごくて、本当にもう夢中になって読んでしまいましたが、色々もう一度考え直したい部分がたくさんあったので、読み直して、お店の読者の方に伝えられたらなと思います。本日はありがとうございます。 ──未来屋書店小山店の松嶋さん、お願いいたします。 松嶋:今日は私の拙い質問にも答えていただいて、本当にありがとうございました。月村先生の作品を通して、私も半グレについて知ることができました。無関心主義で油断していると、日常のすぐ隣に存在するドス黒いものに足元をすくわれるという事を、広く知ってもらいたいと思いました。この作品を含め、月村先生の作品をたくさんの人にお届けできるように、尽力していきたいと思います。これからも先生の作品を心から楽しみにしております。改めて、本日は本当にありがとうございました。 ──ありがとうございます。続きまして、ジュンク堂書店滋賀草津店の山中さん、よろしくお願いします。 山中:先生がおっしゃられている怒りっていうのは、私もすごく感じていたので、嬉しかったです。読み終わった後に、悪が蔓延してしまう状況には絶対なってほしくということをすごく感じたので、この本を読んで、色々考えてもらいたいなって切に思いました。本当にありがとうございました。 ──広島 蔦屋書店の江藤さんも一言よろしいでしょうか。 江藤:先ほど言ったとおり、翔太のところで号泣してしまったんですよ。僕自身もやはり本があったから、今こうやって本の仕事してるんですけど、そうじゃなかったら多分何もやることがないような気がしてて。本があるから今こうやって、生きていけるんだなって思うと、翔太の気持ちがよくわかったんです。その一方で、真逆の人生を歩む海斗がその後、どうなるのか、というのが気になっているんですが、教えていただけますか? 月村:そうですね。それについては、本書の第一部が「翔太の罪」で、第二部が「海斗の罰」というタイトルになっています。それが答え、ということにさせてください。 江藤:なんとなく、おっしゃることがわかりました。ありがとうございます。 ──ありがとうございます。続きまして、啓文社ゆめタウン呉店の三島さん、お願いしてもよろしいでしょうか。 三島:実は、本書で好きなシーンがあるんです。単行本だと256ページなんですが、海斗が部下の女性が読んでいるある本に対して皮肉を言うんですが、それが最後のシーンに繋がってきて、皮肉として海斗に返ってくる。こういう描写も含めて、とても好きな小説でした。 月村:最後のシーンについては、海斗の偏見や他人を見下している、彼自身の在り方を徹底的に批判したかった。その思いが書かせたやりとりだったんです。 三島:そうなんですね。とても印象的でした。ありがとうございます。