米FRBが行なった「利上げ」って何? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は2015年12月、金融政策の最高意思決定会合である連邦公開市場委員会(FOMC)を開き「利上げする」と全会一致で決定しました。利上げは実に9年半ぶり。具体的には政策金利を0.25%引き上げるという内容で基本的にはアメリカ国内の問題ですが、ドルが世界中で最も信頼されている基軸通貨であるため各国市場の株価が上下するなど大きな影響を与える可能性もあります。 【写真】バーナンキ氏の後任 イエレン新FRB議長は何するの? そこで、そもそもこの「米利上げ」って何? という点を掘り下げていきます。
●中央銀行の「利上げ」って?
FRBは中央銀行です。日本ならば日本銀行。中央銀行は通貨(銀行券)を刷れる唯一の存在で(発券銀行)、民間銀行など金融機関にお金を貸し出します(銀行の銀行)。「通貨の番人」とも称されるように、その時々の経済の状況に合わせて、物価を安定させ、「お金の価値」を守って安心して暮らせるようにするのが仕事です。 そのために行うのを「金融政策」と呼びます。主な手法が「金利の上げ下げ」です。通常、中央銀行は「いざ」という時のために、民間銀行から一定額のお金を預かっています。金融機関は日々の資金が多かったり少なかったりすると、銀行間で貸し借りをします。そのときの金利が「政策金利」で、中央銀行はどのくらいの金利にするのか誘導目標を定めて、その範囲内に収めようとします。 政策金利は、アメリカでは「フェデラルファンド金利(FF金利)」、日本では「無担保コール翌日物金利」がそれに当たります。一般的に、景気が悪い時は金利を引き下げ(金融緩和)、景気が良い時には金利を引き上げ(金融引き締め)ます。
「ゼロ金利」が続いたアメリカ
アメリカは長らく事実上のゼロ金利が続いていました。民間銀行へタダで融資していたのと同じです。なぜかというと08年のリーマンショック以来、世界経済が低迷し、民間銀行が不安がって企業などへの融資を渋ったため、不景気がさらに深刻になるという悪循環を招くのを阻止するためです。 民間銀行のもうけを大ざっぱに説明すると、そこから企業などへ貸し出された際の金利から政策金利を引いて算出されます。政策金利がゼロであれば丸もうけになるので倒産など貸し倒れのリスクを多少背負ってでも積極的になり、市中にお金が出回って景気が上向くという計算があります。 ただしゼロ金利には大きな問題があります。何しろゼロですから通常の方法ではこれ以上の景気刺激策がなくなる点です。「通貨の番人」の役割が果たせない恐れが出てきます。 金利が上がれば民間銀行のそれも基本的に上昇するので消費の意欲が衰えます。利下げはその反対で意欲を増す効果が期待できます。こうした上げ下げでお金の価値を守っているのが本来の姿なので、「下げる余地」を残しておくためにはゼロだとまずいのです。 今回、FRBが利上げに踏み切ったのは労働市場などの経済指標が安定していて「上げても大丈夫」と判断したからです。中央銀行の通常業務ができる環境が整ったので行いました。米経済は堅調とはいえ物価高(インフレ)に陥るような状況ではなく、したがって今回の利上げもインフレ退治という目標よりは“通常運転”への復帰をしたかったようです。 実はアメリカはリーマンショック後、ゼロ金利政策と合わせて断続的に「量的緩和策」(QE)を行ってきました。世の中に出回るお金の量を増やして物価を上げる政策です。「ゼロ金利」が異例とすれば、QEは異例中の異例です。FRBは14年2月、ジャネット・イエレン氏が議長に就任した後の10月、まずQEを終えました。この頃から次の段階となるゼロ金利解除に市場の注目が集まるなかイエレン議長は慎重に言葉を選びながら時期を探ってきました。いわゆる「出口戦略」です。