米FRBが行なった「利上げ」って何? 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
●「利上げ」の影響は?
特に新興国で不安視されています。これまでのゼロ金利およびQEによってアメリカからあふれ出したドルが、主に新興国の資産(株式や債券など)や資源を買っており、そうした国々の景気も支えてきました。利上げとは「引き締め」に他ならないので、こうした「緩和マネー」がアメリカへ戻っていくのは確実です。すでにブラジル、南アフリカ、インドネシアといった新興国の通貨は大幅に安くなっています。0.25%と低利とはいえ利息がつけばドル高=各国の通貨安になるのが必然だからです。 FRBもそれが分かっていたから、長い時間をかけて衝撃がなるべく和らぐよう市場とコミュニケーションしながら利上げに踏み切りました。その結果、利上げそのもののショックは大きくなかった半面で、すでに織り込んだドル還流が起きています。 新興国は、異例の金融政策によって潤った部分は、飽くまでバブルに過ぎないと割り切って通常に戻っても発展していけるだけの力を付けるしかありません。ただ新興国が予想以上に経済を悪化させると、巡り巡ってアメリカ経済に打撃を与える恐れもあります。 通貨安になるというのは輸出に有利を意味します。したがってアメリカへ輸出できる産品を作れる力量のある国には利上げは恩恵にもなり得ます。
「出口戦略」がとれない日本とEU
いまだ「出口」が探れない先進国地域である日本と欧州連合(EU)との差も波乱要因となりそうです。日本銀行はゼロ金利に加えてQEに似た「量的・質的金融緩和」を13年から始めています。EUの統一通貨を管理する中央銀行である「欧州中央銀行」は15年から量的緩和策をスタートさせました。ドルの利上げとなればユーロや円が相対的に安くなるのは必至です。輸出に追い風が吹く半面で、輸入品がさらに値上がりして国民生活に打撃を与えかねません。 ドルは基軸通貨です。ある国が別の国と貿易した場合、決済はいずれかの国の通貨ではなくドルでなされるのが大半です。したがってアメリカとの直接取引でなくてもドルの金利は重要になります。 イエレン議長は今後の利上げについて「緩やかなものになる」と発言しています。これで市場はかなり安心しているのです。 結局のところ、リーマンショック以降の量的緩和策やゼロ金利は「異常な状況」であり、いつまでも続けられないので、傷が浅いうちに元に戻したというのが今回の利上げでしょう。しかし「異常」だろうが何だろうが、それで潤ったという経験をした国にとって大問題であるのは変わりありません。といって「異常」を続ければとんでもないインフレを招く恐れをいつまでも解消できません。 特に日欧が採っている量的緩和策は金利の上げ下げという「伝統的金融政策」に対して「非伝統的金融政策」とも呼ばれ明確な効果がはかれないという現実もあります。
--------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】