シリーズ・総裁選~新政権 (3)中道争奪の「2024年体制」になるか
中道立地で政権めざす野田立民
「政権交代前夜」をかかげ、「今のままでは死んでも死にきれない」と語る立民新代表の野田が思いえがくのは09年の政権交代の夢よ再びである。戦略ははっきりしている。ひとことで言えば、政治の横軸を左(リベラル)―右(保守)とみた場合、立民の立ち位置をリベラルから中道にもっていくことだ。 共産寄りの左から自民寄りの右に動いて、有権者の分布でいちばん多い山の部分にあたる真ん中を取りにいくねらいだ。裏金問題をつうじて自民離れをおこしている弱い自民支持や、穏健な保守・中道保守の無党派層を引き寄せることでもある。 これは学問上も実証されている考え方だ。米政治学者のアンソニー・ダウンズ(1930~2021年)の理論によると、左右両極にかたよった主張をもつ有権者は少なく、多くは中道に集まっている。政党が得票の最大化をめざすには、いちばん票の多い中道に寄っていくという説である。政権をめざすには、立民は「全体、右向け右」である。 ただ代表選での決選投票をみると枝野幸男との国会議員票の差はわずか9票しかない。選挙をみても共産の支援を得ることで勝ち抜いている小選挙区議員がいる。党内のリベラル色は濃く、左に寄りがちな傾向は否めない。中道シフトの執行部人事には、さっそくリベラル派から批判が出ている。 野党体質がしみこんだ議員にはダウンズ理論はすんなり受け入れられそうにないが、あわせて野田がめざすのは野党の連携だ。野党がバラバラでは自民に漁夫の利を得られてしまう。そこで可能な限り小選挙区で与党と野党が一対一の対決の構図に持ち込んで与党過半数割れの状況をつくりたいというものだ。 野田はしばしばニホンミツバチを野党に、天敵のスズメバチを与党にたとえる。「一対一ならニホンミツバチはスズメバチに食べられてしまう。ところが、数多くのニホンミツバチが1匹のスズメバチに襲いかかり、胸の筋肉をふるわせて熱をおこす『熱殺蜂球』という集団行動に出るとスズメバチを蒸し殺すことができる。蜂球の内部は47~48度になる。致死温度はスズメバチが45度で、ニホンミツバチは50度近く。最初にかみ殺される10数匹以外のニホンミツバチは生き残る」 ニホンミツバチのように野党がひとつの塊となって、はたして自公に立ち向かうことができるかのどうか。日本維新の会と候補者が重複した選挙区の調整や国民民主党との協力関係の強化などが実現できるのか。維新、国民民主ともそれぞれ党内事情をかかえ応じる考えはなく、一方で共産は立民と競合する候補者の擁立に動いている。 もういちど政権の座につくためには、考え方を異にする安全保障や憲法問題で党内の足並みをそろえる必要がある。今のままでは立民は昔の社会党と同じく万年野党のままだ。境家史郎・東京大教授がいうように自民一強の「ネオ55年体制」がつづく。そこをふり払って政権をめざそうとする野田の挑戦は党分裂の危機さえはらんでいる。