シリーズ・総裁選~新政権 (3)中道争奪の「2024年体制」になるか
24年型政治の先に来るものは
野田の中道保守志向が、党内野党的で穏健な保守層に親和性があるとみられている石破総裁の誕生につながった面がある。強い保守信条を打ち出している高市では中道を取り逃がしてしまうおそれがあるとの判断からだ。中道寄りの石破をぶつければ、野田の色合いが薄まるのは確実だ。 石破自民と野田立民で党首間の政治立地の距離は縮まる。真ん中・中道をめがけた政策競争が繰り広げられることになれば、新たな2024年型の政治になる。 これまでは立民がリベラルに寄っていたうえに、保守層の自民離れもなかったから、自民はそれほど意識しなくても済んだが、こんどは穏健な保守・中道保守の層をうまく取り込んでいかないと厳しい選挙となるのは必至だ。 自民には、靖国神社の参拝や選択的夫婦別姓、女系天皇の問題などに強いこだわりを持つ保守勢力が一定程度いる。立民でも憲法や安全保障など共産と親和性のある議員がいる。それぞれ価値観や思想の違いによる対立で、両党ともそれぞれに深いミゾがある。 富士山型の有権者分布の場合、2大政党制のもとでの政策は中道に寄って似てくるというのが政治学の教えだ。しかしSNSによる極論の拡散、中間層の弱体化で、有権者が両極に寄っていって、急進的なリベラル―穏健な中道―過激な保守の3連峰型に近づいていってはいないのか。そうなれば政党の内部を含めて政治的な対立が先鋭化し、世の中をまとめていく政治の統合機能が弱くなり、社会は不安定になる。 今回の党首交代と来るべき衆院選をつうじて、新しい政治の型が定着するのか、それとも対立・分断含みになるのか、ここが日本政治の分岐点である。 (注)政党立地については拙著『政治をみる眼 24の経験則』(2008年刊・日経プレミアシリーズ021)、熱殺蜂球については日本経済新聞24年3月25日付朝刊「核心」欄の拙稿をそれぞれ参照しました。
【Profile】
芹川 洋一 日本経済新聞社客員編集委員。1950年熊本県生まれ。東京大学法学部卒業・新聞研究所教育部修了後、76年に日本経済新聞入社。政治部長、大阪編集局長、論説委員長、論説フェローを歴任。東海大学客員教授。2019年度日本記者クラブ賞受賞。著書に『平成政権史』(18年)、『宏池会政権の軌跡』(23年)など。24年より現職。