これは、病巣が「とってください」と言っているようだ…! あらゆる「がん」手術で革命を起こしている技術「凄すぎる進化」
手術の最前線ーー「蛍光ガイド手術」
人体解剖の教科書や模型を見たことはありますか? いきなりホラーな質問ですが、血管や臓器がきれいな色で塗り分けられている絵が思い浮かぶと思います。しかし私たちの実際の「腹の中」は……ほとんどの場合「まっ黄色」、つまり脂肪の海です(真っ黒! な人もいるとかいないとか)。 【画像】なんと「“がん”が光って見える」スゴすぎる「新技術」 脳や肺には黄色い脂肪はほとんどありませんが、臓器の奥に埋まった癌の場所を、手術前の画像情報だけで特定するのは想像するほど簡単ではありません。血管・リンパ管の走行や臓器の境界、癌の場所を「発光」させ、肉眼よりも「よく見る」ことで安全確実に手術を行うーーこれが「蛍光ガイド手術」のコンセプトです(詳しくは過去の連載(https://gendai.media/articles/-/106849)をご覧ください)。 日本が開発に大きく寄与した蛍光ガイド手術は、現在ほとんどすべての診療科(文字どおり頭から足の先まで)で活用されるようになり、先進国だけでなく世界中に広まりつつあります。このような潮流の中で、先日(2024年4月5日・6日)「国際蛍光ガイド手術研究会アジア太平洋支部」の学術集会を大阪あべのハルカスで開催する機会に恵まれました。 20以上の国々から50題の素晴らしい発表があったのですが、その中から選りすぐりのトピックを速報します!
蛍光試薬の王者「ICG」の褪せない輝き
現在、蛍光試薬として世界中で最も多く使われている薬剤は、ICG(インドシアニングリーン)です。 主に肝機能検査用の試薬として70年近く臨床現場で使われてきた大ベテランなのですが、2000年頃からその近赤外蛍光特性が注目され、手術中に「少し深いところにある血流や構造を描出する」ために様々な分野で活用されるようになりました。その中には、ICG蛍光イメージングを用いることが手術の結果を良くすることが高い信頼度で証明された技術もあります。 その一例として、直腸癌手術でICGの蛍光に基づいて腸管血流を描出すると、縫合不全(腸のつなぎ目が破綻する合併症)が4%も減少することを示した日本の多施設研究の結果が紹介されると、「自国の大腸手術の成績向上のために是非ノウハウを持ち帰りたい!」という聴衆の期待が一気に高まりました。 腹腔鏡胆嚢摘出術(ラパコレ)の手術中に、ICGを静脈内投与するだけで胆管の走行を描出できる「蛍光胆道造影」は、私が2009年に初めて報告した技術です。 それから10年以上の歳月をかけて世界中から有効性の報告が集積された結果、遂に昨年(2023年)、日本で保険適用となりました。 今回の学会で、アジア各国からその有効性について発表が行われたことは、開発者の一人として感無量です。マレーシアでは、ラパコレの際に胆管損傷(必要のない部分の胆管が傷つき胆汁が漏れてしまうこと)を起こしてしまった外科医は「再教育プログラム」を受講する必要があり、そのトレーニングの一環として蛍光胆道造影が活用されているそうです。この技術は学生や研修医の教育に良いと感じていましたが、「再教育」への応用は思いつきませんでした。 ICGを使った蛍光イメージングは、今すぐ手術成績の向上に結びつかなくても、未知の現象を解明する力を持っています。今回の学会でも、膝の半月板の手術中にICGを静注して蛍光イメージングを行うと、従来の常識ではほぼ血液がないとされていた部位に血流のシグナルが捉えられることが日本から報告されました。肝臓の中を走る血管の周囲にICGを注入し、「肝臓からのリンパ流路」というブラックボックスの解明にチャレンジした中国の発表も特筆すべきものです。