伊東輝悦が50歳まで現役を続けられた理由「若いころのイメージを追いかけたりはしなかった」
【50歳までいったらすげえんだろうな】 現役を退いた選手は、「これから何がやりたいですか?」と聞かれる。「引退」とは節制や抑制からの解放を意味する、と受け止められるからだ。 「それ、取材でよく聞かれるんだけど、そこまで何かを我慢していたわけじゃない。だから、これといってないというか。 たとえば食べるものだって、『これからは何でも気にせずに食べられる』ということはない。何を食べてもいいからと言って、いきなり好きなものをお腹いっぱい食べる、ということもない。生活がいきなり変わることはないし、『さあ、やりたいことやるぞ』っていう感じでもなくて。強いて言えば、ボルダリングをやりたいなって」 清水から移籍したヴァンフォーレ甲府在籍時に、ボルダリングにチャレンジしたことがある。壁をのぼった翌々日に、腰が悲鳴をあげた。 「ぎっくり腰みたいになったから、それ以来、怖くてできなかった。引退したし、ちょっとやってみたいかなと。ホントにそれぐらいなんですよ。山登りが好きなんだけど、シーズン中にまとまったオフがあれば行っているし」 現役生活は、できるかぎり続けたい。そのために、やるべきことは惜しまない。ただ、伊東はやるべきことをやりすぎなかった。「ストイック」と適度な距離を置いたことは、稀有なキャリアを築いた理由である。 「そこはたぶん、人それぞれだと思うので。ストイックにやったら、性格的に爆発しちゃうので」 リーグ戦の出場試合数だけを見れば、引退のタイミングは過去にもあっただろう。J3のブラウブリッツ秋田から同カテゴリーの沼津へ移籍した2017年、翌2018年は、リーグ戦の出場がない。2019年は1試合で、2020年と2021年は再びプレータイムを刻めなかった。2023年も、出場試合数の欄は「0」である。 「辞めたいなって思ったことがなくて、できるなら続けたいと。(オファーが)なかったら辞めるしかないけれど、ラッキーにもここまでできた。40歳までやる人もなかなか少ないなかで、突き抜けたら周りが違う見方をしてくれるんじゃないかな、と。 当たり前の年齢で辞めたら『あっ、引退したんだな』ってなるだろうけど、突き抜けたら『この人、何かすげえな』とか『面白いことやってんなあ』ってなるかなあって。それで、やれるならやろうと。漠然と『50歳までいったらすげえんだろうな』という気持ちで続けてきたのもある」