「ゴッホの絵は、生前1枚しか売れなかった」わけではない!? 西野亮廣が『ストーリーマーケティング~ゴッホの嘘~』というテーマで、ブランディングの本質を語る!
あまりにも有名なあの逸話、どう考えても怪しいんです
ゴッホは「生前、1枚しか絵が売れなかった(死んでから、その才能が認められた)」という逸話があまりにも有名で、皆、このストーリーにやられていますが、これはどう考えても怪しいんです。 まず、パッと見た感じで言うと、「大量の絵の具を使ってるけど、1枚しか絵が売れてないわりには、材料費ハンパないっすよね?」という疑問がある。 しかも何年も残り続ける質の良い絵の具を使っている。 あと、ゴッホは、あの色彩から分かる通り、日本の浮世絵マニアで、浮世絵漬けと言っても良いほど浮世絵へと傾倒していきました。 ゴッホが収集した日本の浮世絵作品は400点以上あって、ついにゴッホは浮世絵コレクターとして浮世絵の展覧会を開催したりしているんです。 生涯で絵が1枚しか売れていないわりには、ずいぶんな金持ちムーブをかましている。 「1枚しか絵が売れていない不遇の天才なんでしょ? どゆこと?」という話なんですけども、これは以前もvoicyでお話ししましたが、少しカラクリがありまして…2011年12月11日の日本経済新聞に、面白い記事が載っておりまして、一部、紹介させていただきます。 「画家の兄(ゴッホ)と画商の弟(テオ)は、早い時期に契約を結び、『兄が制作した全作品を弟に提供するかわりに弟は兄に毎月一定の生活費を送金する』という対等な関係になった。敏腕の画商であったテオは、純粋な兄弟愛から契約したというより、兄の才能を冷静に見極め、成功することを確信していたという。実際、ゴッホは生前から画家仲間や一部の批評家に非常に高い評価を得ていた。しかし、画家が没すれば作品価格が急騰するという目論見(もくろみ)もあって、テオはあえて兄の作品を売らずに保持していたという」 ー日本経済新聞 2011年12月11日 朝刊、美術史家・宮下規久朗による新関公子著『ゴッホ 契約の兄弟』(ブリュッケ)の書評より抜粋 つまり、ゴッホの絵は「生前1枚しか売れなかった」わけではなくて、「ゴッホが描いた絵は、画商である弟のテオが全て買い占めていたから、市場には出回らなかった(=市場では売れなかった)」というだけの話で、「死んでから評価された不遇の画家」でも何でもなかったんです。 絵は全作売れていたし、食うもん食っていたし、浮世絵が好きすぎて浮世絵の展覧会を開催していたし、なんなら、弟のテオに「もっと金をよこせ。他の画商に売るぞ」的な手紙を書いていたりする(笑)。 でも、「ゴッホ展」を開催する時には、この部分は前面に出さず、「死んでから評価された不遇の天才」みたいな打ち出し方をしているんです。 なぜ、そんなことをするかというと(察するに)、何者にもなれないまま歳を重ねてしまった人に対して「俺の才能はまだ見つかっていないだけ。あのゴッホがそうであったように」と思ってもらい、そういう人達の「希望」になる為だと思われます。 狙ってそうなったのか、たまたまそうなっちゃったから後乗りしたのかは分かりませんが、つまるところゴッホは、「俺、まだまだやれる」と思いたい層をメインターゲットにおいた「希望マーケティング(ストーリーマーケティング)」なんです。