自衛隊の新たな強敵「採用難」昨年度は目標の半分、過去最低更新…激しい民間との競争「改革の時」指摘も
南西防衛や災害対応に向き合う自衛隊の前に、採用難という新たな「強敵」が現れた。民間企業との獲得競争が激しさを増す中、昨年度に確保できた自衛官は目標の半分にとどまり、過去最低を更新したのだ。世界的な半導体製造工場に代表される企業進出が相次ぐ九州も例外ではなく、専門家は「募集業務の外注を含め、採用のあり方を抜本改革すべき時だ」と指摘する。(池園昌隆) 【グラフ】全国の有効求人倍率と自衛官採用数の推移
「お金がたまる」「技術身につく」面もPR
「『陸海空』のどこに興味ある?」「いろいろな仕事があるよ」。10月31日夕方、福岡県行橋市のJR行橋駅の構内で、迷彩服姿の自衛官が学校帰りの高校生らに声をかけていた。
自衛隊の福岡地方協力本部(地本)が新たに導入した出張型の勧誘拠点「サテライトブース」で、通信や車両整備など幅広い仕事を知った男子高校生(15)は「今まで自衛隊は戦うイメージだけだった」と関心を抱いた様子だった。
駅や大型商業施設など16か所のブースには、2か月で延べ約4500人が訪れた。駐屯地見学や任務体験イベントのほか、高校への出前説明会は前年を約30校上回る約80校で開いた。同地本大牟田地域事務所長として、各地の高校を回る陸上自衛隊の田中一行3佐は「お堅い仕事の話ばかりではなく、『お金がたまる』『(重機の免許取得など)技術が身につく』と伝えた方が反応がいい」と語る。
採用は計画の51%
募集の「最前線」には危機感が広がる。防衛省は昨年度、1万9598人を採用する計画だったが、採用に至ったのは51%の9959人。全体の約7割を高卒者が占め、特に任期制(2~3年)の自衛官候補生は目標の30%と落ち込みが著しい。これに対し、全国の有効求人倍率はコロナ禍を経て上昇基調にある。
福岡県の採用者は計約600人と九州・沖縄の中では最多だったものの、計画の6割ほどにとどまる。県内事業者の高卒者に対する求人倍率は今年、過去最高の3・70倍に達しており、人材の確保は容易ではない。
働き手の不足を受けた賃金の上昇も要因の一つ。高卒後の自衛官候補生の初任給は16万円弱だが、一般財団法人「労務行政研究所」(東京)の調査では、今年就職した高卒人材の平均は19万円超。看護師志望の女子高生(16)は「防衛医大なら学費は不要」と誘われたが、「給料も重視したいので、民間と比べたい」と迷いを見せる。