自衛隊の新たな強敵「採用難」昨年度は目標の半分、過去最低更新…激しい民間との競争「改革の時」指摘も
半導体受託製造の世界最大手「台湾積体電路製造(TSMC)」が熊本県に新設した工場は、全国平均を5万円も上回る初任給を示したことで話題になった。福岡県でも、トヨタ自動車と日産自動車が電気自動車(EV)用の電池工場を新設する計画を打ち出しており、求人倍率は各地で高止まりが続いている。各地本は未来の自衛官を求めて地域の祭りや学校の防災イベントに出向くが、「民間との競争は、より熾烈になる」と焦りを隠せずにいる。
若年人口の減少も窮状に拍車をかける。国立社会保障・人口問題研究所などによると、30年後の18~32歳人口は、現在の4割減の約1113万人になる見込みだ。個人情報に関する意識の高まりに加え、防衛省が近年、経費削減などを名目に全国の地本事務所の半数を街中から役所の庁舎などに移転させたことが事態を悪化させたとの指摘もある。
福岡地本の久田茂将本部長(1等陸佐)は「若者に自衛隊の魅力を伝えられる場が限られる中で、『特効薬』はない。地道で時間のかかる仕事だ」と明かす。
「働く利点充実を」
「充足率が下がれば徐々に現場の力は落ちていく」。自衛隊幹部は口をそろえる。九州・沖縄の防衛を担う陸自西部方面隊トップの荒井正芳・西部方面総監(陸将)も「将官も採用活動の現場に出るなどし、組織全体で意識を高めていく必要がある」とし、10月には自ら佐賀市を訪れ、防衛大の志願者らに自衛隊の意義を伝える異例の取り組みを始めた。
陸自は3月、駐屯地で委託が可能な業務を精査する「民間力活用推進班」をつくった。非常勤職員として雇用した民間人を広報や運転業務に充てるなどしたことで、約60人の隊員を部隊に配置換えできるという。政府も10月、自衛官の処遇や勤務環境の改善策などを検討する関係閣僚会議を初めて開いたが、議論は緒に就いたばかりだ。
元陸将補で日本大の吉富望教授(安全保障論)は、全国転勤や50歳代での定年といった労働環境が若者に敬遠されていると指摘し、「将来のキャリア形成や退職後の就職支援など、自衛官として働く利点を充実させる必要がある」とする。その上で、「チラシ配りなど『昭和型』の採用活動から脱却し、データ分析が得意な民間企業への委託なども検討すべきだ」と話す。