【日本シリーズ2024】なぜDeNAは圧巻の「下剋上」を達成できたのか 前田幸長「第3戦で潮目が変わった」
── ターニングポイントになった試合、シーンはどこだと思いますか。 前田 そうしたなかで迎えた第3戦、東克樹投手が先発して勝った試合ですね。あの試合で潮目が変わった気がします。シリーズ前、故障明けの東投手は第4戦に先発するのではないかと言われていました。それが第3戦に先発し、10安打を許しながらも7回1失点に抑えて勝利した。ソフトバンクにしたら、完璧に抑えられたわけじゃないのに点が取れないという、嫌な負け方になってしまった。ただ、あの時点ではそこまで深刻ではなかったかもしれません。それが第4戦で、アンソニー・ケイ投手に今度は完璧に抑えられたことで形勢が一気に変わりました。 ── もともとDeNAは打つチームという印象がありますが、今回のシリーズでは投手陣の活躍が印象的でした。 前田 ソフトバンクが29イニング連続無得点のシリーズワースト記録を樹立するとは、想像もできませんでした。特にアンドレ・ジャクソン投手、ケイ投手の両外国人にここまで苦労するとは思っていませんでした。おそらくソフトバンクも、東投手に抑えられてもほかの投手からはある程度得点できるだろうという気持ちがあったと思うんです。それが想像以上にすばらしいピッチングをされて、ソフトバンクは焦ってしまった。その打者の焦りが投手陣にも伝わってしまい、「打たれてはいけない」という悪循環に陥った。 ── シーズン3位からの下剋上で日本一を達成したDeNAですが、今回の日本シリーズを見て思ったことはありましたか。 前田 シーズンとCS以降の戦いはまったく別物だということです。これは今に始まったことではありませんが、最後の最後にピークを持ってきたDeNAの戦いは見事でした。ジャクソン投手、ケイ投手にしても、来日当初はストライクゾーンや環境の違いに苦労したと思うんです。それが経験を重ねて、日本の野球に順応し、シリーズで力を発揮した。ほかにも、MVPを獲得した桑原選手、離脱した山本佑大選手に代わってマスクを被った戸柱恭孝選手の活躍も見逃せません。みんなの思いが、この短期決戦に集約されて、シーズン中とはいい意味で別のチームになった。それが最大の要因ですね。あとは、短期決戦で勝つことはもちろん大事ですが、やはり長いシーズンを戦って勝てるチームになってほしいと思います。 前田幸長(まえだ・ゆきなが)/1970年8月26日、福岡県生まれ。88年、福岡第一高のエースとして春夏連続甲子園出場。同年夏の大会で準優勝を果たす。その年のドラフトでロッテから1位指名を受け入団。1年目から一軍登板を果たし、2年目からローテーション投手として活躍。95年オフにトレードで中日に移籍。2001年オフにはFAで巨人に移籍。貴重な左腕としておもに中継ぎで活躍し、04年9月26日に通算500登板を達成した。08年にはメジャー挑戦のため渡米し、テキサス・レンジャース傘下の3Aオクラホマ・レッドホークスで中継ぎとして36試合に登板。チームの地区優勝に大きく貢献するも、シーズン終了後に20年のプロ野球生活に区切りをつけ現役を引退。現在は野球解説者を中心に多方面でも活躍中
スポルティーバ●文 text by Sportiva