駅伝秘話! 逆風の水産加工業が生んだ「起死回生の魚コラーゲン」後編
毎年10月に開催される、大学三大駅伝のひとつ出雲駅伝。年始の箱根駅伝に繋がる大会として、駅伝ファンの中では注目度の高いレースだ。2024年、そのラジオ放送の番組にとある静岡県の中小企業の商品名が冠された。従業員40名の水産会社は、なぜ駅伝の冠名を取得するに至ったのか。その裏側には、地方の水産加工会社の生き残りをかけたドラマがあった(後編)。 ●「妻の助言」で方針転換 あと少しで「コラーゲンパイ」に投資をして大失敗するところでしたーー。 静岡県の焼津市にある水産加工会社のダイトー水産。古くは500年以上前に遠洋漁業から始まり、ビジネスが代々受け継がれて今でもまぐろやかつおの水産加工を手掛けている。 この会社が、2024年の出雲駅伝のラジオ放送におけるスポンサーになった背景には、先細る水産加工ビジネスへの対策として、コラーゲン事業に乗り出したことがあった。 まぐろの皮から抽出されるコラーゲンを使ったアスリート向けのリカバリードリンク『オレは摂取す』がヒットし、陸上選手を中心に愛用が広がっている。 2024年に文化放送で放送された出雲駅伝は、この『オレは摂取す』が冠された。 従業員わずか40名の中小企業が、全国放送の駅伝のスポンサーとして番組に商品名が出るのは画期的なことだ。 しかし、『オレは摂取す』を生み出したコラーゲン事業は、最初から順調だったわけではない。 ダイトー水産の齋藤啓治郎社長が振り返る。 「コラーゲンを何に入れるか考えた時、最初はお土産で勝負しようと思ったんですよね。静岡といえば春華堂さんの『うなぎパイ』でしょう。それにあやかって『コラーゲンパイ』かなって」 「ところが、その案を妻に披露したら、ものすごく呆れられました。『あなた、コラーゲンって言ったら美容でしょう!』って。そこから、ゼリー飲料の開発を模索し始めました。妻の方がビジネスセンスがあるんですよ(笑)」(齋藤社長) ●「コラーゲン×美容」だけでは頭打ち 最初に商品化したのが、『おやすみ習慣コラーゲンゼリー』。ピンク色のパッケージで、ターゲットは美容意識の高い女性だ。 新商品が続々と投入される美容コラーゲン市場の中でも、スティックタイプという点が珍しく、発売当初は好調だった。コスメサイトでトップを獲得したこともある。 しかし、次第にコラーゲン市場がレッドオーシャン化し、多くの競合商品の中に埋もれやすくなってしまった。宣伝にお金をかけても、ほとんど売れ行きに影響しなかった。 「コラーゲンには動物系と魚系があり、体温の低い魚のほうが吸収率が高くて実感につながりやすいというデータがあります。でも、その点を意識して購入される人は多くありません。競合商品と差別化できず、売り上げは頭打ちになってしまいました」(齋藤社長) ブレイクスルーのきっかけは、家庭の身近なところにあった。 「妻がサッカーをやっていた息子の弁当に『疲れた時に飲みな』って、コラーゲンゼリーを入れていたんです。それを見て、もしかしたらスポーツの疲労回復に使えるんじゃないかと」 「コラーゲンが美容に良い理屈は、破壊された組織を修復する機能があるから。であれば、破壊された筋肉を修復することもできるはず。リカバリーに関するあらゆる文献を読み漁って可能性を探りました」(齋藤社長) すぐに開発に着手し、静岡県立大学との共同研究や、地元のJ2サッカーチーム藤枝MYFCと協力しながらデータを積み重ねていった。 果たして、開発スタートから3年の歳月をかけて『オレは摂取す』が開発された。気づけば2017年末を迎えていた。 コラーゲン事業に参入すると決めてから、約10年が経っていた。