「トランプ勝利」が“第三次世界大戦”を食い止める? 波乱を呼ぶ大統領は「今そこにある世界の危機」にどう対峙するか
中東にも和平が…
ここで鍵を握るのが、アメリカによる対ウクライナ戦略だ。バイデン政権からハリス政権になったとすれば、現在の緊張状態は継続されただろう。バイデン政権は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、武器提供を含む1750億ドルを支援してきた。 11月1日にも追加で4億2500万ドルの支援をウクライナに送ると国防総省が発表したばかりだ。ハリス副大統領が大統領になって対ロシア戦闘を継続支援するとなると、戦争は今後も続き、北朝鮮や韓国の関与もどんどん深まっていくのは不可避だった。 だが、トランプ新大統領は、自分が勝利して大統領に返り咲けば、米国民の税金が使われる莫大なウクライナへの支援を止めるために、「ロシアとの戦闘は終結させる」と主張し続けてきた。停戦が実現すれば、もうこれ以上ウクライナ紛争の死傷者は出なくなり、朝鮮半島の代理戦争といった事態も起きなくて済むだろう。世界大戦は回避できる可能性が高い。 具体的には、トランプはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に、アメリカの支援停止をちらつかせて、ウクライナ東部の支配権をある程度譲歩させ、停戦に持ち込むだろう。そもそもアメリカの支援なしでは戦えないゼレンスキーがトランプの要求をのまない選択肢はない。 さらに言えば、中東でも、トランプが大統領になることで、一時はケンカしていたが仲直りしたイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との良好な関係から、パレスチナ自治区ガザへの報復攻撃が収まる可能性がある。イスラエル軍のガザへの攻撃についても、トランプは長引かせないよう繰り返し主張してきた。加えて、お互いに報復攻撃を繰り広げているイランとの緊張関係も、トランプがイラン側に断固たる姿勢を見せることでその動きを抑止することができるだろう。ロシア侵攻にも関与するイランは自由に動けなくなることも考えられる。 トランプは、2023年に起きたイスラム組織ハマスのイスラエル領内へのテロ攻撃は「自分が在任していたら発生しなかっただろう」と発言している。少なくとも、トランプが大統領に返り咲くことで、中東での武力による衝突は下火になると期待できる。無辜の 人たちが犠牲になることはなくなるはずで、今後は話し合いを再開すればいい。 民主党のハリス陣営は、大統領選に勝つために「トランプが世界を混乱に陥れる」という指摘を拡散させてきた。第二次トランプ政権でも前回同様、アメリカが国際協調路線から自国第一主義になるのは間違いないが、一方で世界的な紛争は落ち着く可能性が高い。しかも第三次世界大戦を事前に食い止めることになるならば、それだけで世界はトランプ勝利を歓迎すべきかもしれないのである。
山田敏弘 国際ジャーナリスト、米マサチューセッツ工科大学(MIT)元フェロー。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などに勤務後、MITを経てフリー。著書に『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など。数多くの雑誌・ウェブメディアなどで執筆し、テレビ・ラジオでも活躍中。 デイリー新潮編集部
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