「やせ薬」が10種類のがんのリスクも下げる可能性、最新研究、新たな効果が続々
肥満や2型糖尿病の「GLP-1受容体作動薬」、心臓病や腎臓病、炎症などへの効果に続く報告
もとは糖尿病のために開発され、その後、同じ成分が肥満症の治療薬としても使われるようになったオゼンピックやマンジャロなどの薬には、糖尿病や肥満の改善にとどまらない利点があることを示す証拠が増えつつある。最近の研究によると、心臓病や腎臓病の予防、全身性の炎症の減少のほか、2024年7月5日付けで医学誌「JAMA Network Open」に発表された論文では、10種類のがんのリスクを下げる効果も示唆されるという。 ギャラリー:炎症を抑える食べ物とは、病気の進行やがんの治療にも影響 写真6点 「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれるこれらの薬には、「セマグルチド」(2型糖尿病薬オゼンピック、肥満治療薬ウゴービとして承認)や「チルゼパチド」(2型糖尿病薬マンジャロとして承認、肥満治療薬ゼプバウンドとして米国で承認されているが日本では承認申請中)などがある。 上記のような効果の一部は、GLP-1受容体作動薬によって患者の体重が減ることに起因する可能性が高いが、これらの薬にはどうやら、体重の減少とは無関係に健康を改善する働きがあるようだ。 「肥満症の人々で見られたセマグルチドが心臓を守る効果は、薬の投与を始めてから数カ月以内に現れており」、これは2022年に結果が発表された臨床試験(治験)に「参加した人々の大半で有意に体重が減るよりもずっと早い時期にあたる」と、2024年7月18日付けで学術誌「Science」に発表された論評で、カナダ、マウント・サイナイ病院ルーネンフェルド・タネンバウム研究所の内分泌学者ダニエル・ドラッカー氏は述べている。 「GLP-1のイノベーションの初期段階では、血糖コントロールに焦点が当てられ、やがて体重の減少が注目されるようになった」と氏は書いている。「その後わかってきた効果は、さまざまな慢性疾患をもつ人々の健康状態の改善に役立つ可能性が高そうだ」 今回の「JAMA Network Open」の研究では、肥満のある人々は、13種類のがんを発症するリスクが高いが、GLP-1受容体作動薬を処方された2型糖尿病患者では、インスリン(血糖値を下げるホルモン)のみ処方された患者に比べて、これらのがんのうち10種類のリスクが低かったことがわかった。 GLP-1受容体作動薬とがんのリスク低下との関係を完全には解明していないため、効果があるとはまだ断定できないが、GLP-1受容体作動薬に特定のがんのリスクを下げる可能性もあることが初めて示されたのだ。 この研究は米国の患者165万人を対象とした大規模なものだが、確認できていない事柄もあるため、「楽観視しつつ慎重」であるべきだと、米カリフォルニア大学デービス校医学部のがん免疫学者で、肥満の影響を研究しているウィリアム・マーフィ氏は言う。