Fat Dogとは何者か? 規格外のサウスロンドン狂犬軍団が語る「レイヴ×パンク」の融合
デビューアルバムを大いに語る、初来日に向けて
―アルバム『WOOF.』はたった33分で終わるコンパクトなものですが、その分濃密で凶暴なダンスアルバムだと思いました。改めてテーマやコンセプトを教えてください。 ジョー:歌詞の面で言えば、この3年分の頭に浮かんだストーリーだの何だのが集まったものだよ。それらを結ぶコネクションと言えば、歌詞に描かれるのはかなり曖昧な物語であって、だから聴き手も色んな風に解釈できる。音楽面に関して言えば、どの曲も同じひとつの世界に属しているというか、それぞれに繫がりの感じられるものにしたかった。(所属レーベルの)Domino側はあともうちょっと曲を追加したかっただろうと思うけど、僕は完璧に具現化された、包括的な作品にしたかった。均整のとれた、すべてが同じ世界の中で鳴っている、そういう作品を目指した。 ―インスピレーション元となった作品やアーティストを教えてください。 ジョー:数が多過ぎて……。ともあれ、聴いていたアクトは山ほどいる。例えばザ・クランプスや色々なダンス・ミュージック。ガキの頃に聴いていたノスタルジーを掻き立てられる音楽もある。例えば、ケミカル・ブラザーズとかベースメント・ジャックスとかもね。もちろんデッドマウスは確実にこのアルバムにも少し聴いて取れると思う。それとリトル・ビッグ(ロシアのEDMグループ)や、ファット・ホワイト・ファミリー。そんなところかな? とにかく多過ぎて言い切れないな。 ―つまり、今まで聴いてきたすべてをマッシュアップしたものであって、それはひとくちには形容しにくい。 ジョー:ああ、そういうことだと思う。思うに、1stアルバムというのは、それまでに聴いてきた何もかもを詰め込むものなんじゃない? どうしたって過去に聴いてきた音楽がすべて混じってくる。だからこそ2ndが難航するんだろうね。「クソッ! 前作から半年の間に聴いた音楽からのインスピレーションしかないのかよ!」みたいな。とは言っても、実は2作目にはもう着手しているんだ。周りからたくさん「あ~、2ndアルバムは手こずるものだよ」と言い聞かされてきたから不安で。だからあまり間を置かずに全力で取りかかろうとしている感じ。 ―ある意味、「完璧なデビューアルバム」というよりも、ファット・ドッグの現在地をそのままドキュメントした作品? ジョー:いや、僕は本当に1枚目をパーフェクトなものにしたかったんだ! ただ、自分から見て、「これは完璧」と満足できるものなんてありっこないわけで。だからだろうな、僕たちは「たぶん2ndで完璧なものを作れる」って言い続けているのは。 ―で、「いや、3rdが完璧になる」……と続いていくっていう(笑)。 ジョー:そして「4枚目こそ」ってね(笑)。まあ、自分ではよく分からないけど、今の段階で出すのには良いアルバムになったと思う。出来の良過ぎるアルバムを作ってしまうとむしろ路頭に迷うんじゃないかな。僕のスタンスはむしろ、2ndではまた別のことをやれるんじゃないか?というものなんだ。 ―アルバムの中でも気になった曲についていくつか伺います。「King of the Slugs」は7分に及ぶデビュー曲ですが、どうしてここまで壮大な曲になったのでしょうか? ジョー:何でだろうね? ―デビュー曲だったら、3~4分台のポップな曲を選ぶことが多い気がします。 ジョー:うん。でも、たくさんの人たちがそれを求めていたんだよ。YouTubeにアップされてる僕たちのライブ映像の数々を観てもらえば分かると思うけど、コメント欄のメッセージで一番多いのが「『King of the Slugs』をリリースしろ!」だったんだ。というわけで、最初にそれをやったら楽しいだろうな、と思った。それに、「King of the Slugs」は最もファット・ドッグらしいトラックだと思うから、僕はあれをデビュー曲として出すのは良いアイディアだと思ったんだ。 ―「Closer to God」はプロディジー的なダンストラックだと思います。ロックと電子音楽を組み合わせる上で意識したことや苦労したことを教えてください。 ジョー:まあ、「こういう感じにしよう」と努力したものの、結果的にその狙いとは違うものができた。でも、それもオーライというか。あの曲はたぶん、このレコードの中で最もパンクっぽい響きの曲なんじゃないかな。 ―「Clowns」はいかがでしょう。ストリングスやピアノのアレンジが特徴的で、どこかカニエ・ウェストのある意味で尊大な楽曲を思わせる部分があります。 ジョー:ああ(苦笑)。 ―この曲の制作の背景について教えていただけますか? ジョー:あれは……このアルバムのために最後に録音した曲だった。ということは、あの時点で、僕は頭がおかしくなってたんだと思う(笑)。いやだから、僕たちはこのアルバムに本当に長いこと取り組んできたわけだし。あの曲を録ったときは「ああ、これさえやり終えれば、アルバムも完成だ……」という思いを抱いていた。そんなところかな。もしかしたらあの曲は、今後僕たちがもっと向かう方向を指し示しているのかもしれない。あるいは、そうじゃないかもしれない。だけど、とりあえず、他に較べるとポップ寄りな曲だよね。 ―「Running」は激しいレイヴを連想させる曲ですが、どのようにこの曲が生まれたのか教えてください。 ジョー:あれは、まず、曲の終わりの箇所を思いついたんだったと思う。で、そこを起点に、曲の冒頭部を後から足していった。たまに起きる、運良くすべてがピタリとハマった曲のひとつだね。まずアイディアが浮かび、ミドルも思いついた。ただし、その時点ではまだバラバラの思いつきだから、個別に取り組んでいるわけ。これらは別物だし、同じ曲にひとつにまとまるだろうとは自分でも思っていない。ところが、試しに組み合わせてみたら、ラッキー! 上手くいったじゃん!という、そういうトラックだった。 ―今作の録音プロセスは、あなたにとってかなり強烈なものだったのでしょうか? 資料には「作っていて動悸息切れがしたほどだった」という主旨のくだりがあります。 ジョー:かなり濃かった。というのも、責任が重くて……「アルバムを完成させるのはお前の役目だ」と人から言われる、そんな作品になるとは思ってなかったんだよ。でも基本的に、結局僕もアルバムを共同プロデュースすることになった。良い勉強にはなったけど、すさまじくストレスも感じた。デビューアルバムを自分でプロデュースする人ってそんなにたくさんいるのかな。 ―重圧を感じた理由のひとつは、あなたが完璧主義者だからでしょうか? ジョー:そうかもしれない。例えば、(プロデューサーの)ジェームス・フォードは素晴らしい人物だし、僕も大好きなんだよ。でも、彼が「OK、この曲はこれで完成」と言うのを耳にすると、こっちは「えっ? 嘘でしょ」と考えてたり(笑)。だから半分くらいは、自分でも思いがけなくOKが出たというか。まあ、フェアに考えれば、彼の方が正しかったのかも。彼の意見は常に正しくて、僕は、無意味なひとり相撲をしていたのかもしれない。ともあれ、こうして作品は出来上がったわけだし! ―ライブの話も聞かせてください。リリース直後から大量のライブが予定されてますし、12月には3都市を巡る来日公演も決定しています。 ジョー:イエス! ―日本でのライブは初だと思いますが、どんなライブが期待できますか。 ジョー:僕たちが過去3年にわたってやってきたことと同じじゃない? 良いショウになると思うよ。 ―少なくとも、ライブでこれだけはやりたいと思う点や力を入れている点、ショウの中でポイントになる箇所と言えば? ジョー:まずストロボ・ライトは使う。ダンス場面もあるだろうし、ビッグなベース・ラインも登場する。それから……他に何があるだろう? おそらくカウボーイ・ハットも顔を出すだろうな。ただ、たぶん空手着は日本には持っていかないと思う。お客から「失礼だ!」と非難されて、ボコボコにされるかもしれないから。 ―そんなことないですから、心配しないでください(笑) ジョー:うんうん、もちろん冗談だってば!(笑) ―心持ちとしては、「日本のオーディエンスをファット・ドッグ信者に…」というところですか? ジョー:そうだね。ギグをやる時は毎回そのメンタリティだけど、特に日本のお客さんが相手だと、そうなるだろうね。ライブは毎回そうなんだ。僕たちが何者かよく知らないお客さんを前にするところから始まるんだし、僕たちを好きになってもらうべく出来るだけがんばろうと。 ―バンドとして今後挑戦したいことはありますか? ジョー:自分でもさっぱり分からない。日本の音楽をやるとか(笑)? 日本の音楽は好きなんだよ、イエロー・マジック・オーケストラとか。でも、今後何をやりたいのだろう? もっとポップなタイプの音楽? それとも逆? 自分にも分からないし、どうなるのか見当もつかない。そうは言いつつ、僕たちは今ちょうど、新たな素材に取り組み始めたところだね。 ―訪日時には日本の音楽を吸収できるかもしれません。日本の音楽シーンはとても興味深いですよ。 ジョー:そうなんだ? 日本の音楽は生で観てみたいな。日本に行けること自体すごくワクワクしてる。まだ日本に行ったことがないからね。本当に楽しみにしてるよ! --- ファット・ドッグ 『WOOF.』 発売中 FAT DOG JAPAN TOUR 2024 SUPPORT ACT:bed 12月2日(月)大阪・Yogibo META VALLEY 12月3日(火)名古屋CLUB QUATTRO 12月4日(水)恵比寿LIQUIDROOM
Shunichi MOCOMI