「捨てるなら私が死んでからにして!」90歳老母が集めるガラクタは溜まり続けて。気の強い高齢者と子ども世代の隔たりは埋まらない
◆「捨てるなら、私が死んでからにして!」 1カ月ほど前のことだ。我が家の斜め向かいに住んでいた一人暮らしのおばあさんが89歳でこの世を去った。後日、遠方に住む息子さんが依頼したという遺品整理業者がやって来て、荷物の運び出しをおこなっていたのだが……。 田舎の家というのは無駄に広い。首都圏のマンションと違って、いくらでもものを溜め込むことができる。 このお宅も初日にやって来た大型トラック3台では積みきれなかったのだろう。翌日、もう1台がやって来て追加の作業をおこなっていた。 仮に、1台20万円として、4台で80万円也。我が家の建坪は、その平屋のお宅の倍以上ある。 ということは……。 ものを捨てるために使うお金ほど空しいものはない。ため息どころか、それこそちゃぶ台をひっくり返したくなる。 「廃棄処分にもお金が掛かるんだから、必要ないものは溜め込まないの」 いくら言っても、「それがどうしたの?」とばかりに、老母は全く以て理解しようとしない。それどころか、物置に押し込まれているガタついた椅子や傷んで使えなくなった簾(すだれ)などを市のゴミ処理場に車で持って行こうとすると、 「捨てるなら、私が死んでからにして!」 鬼の形相で立ちはだかってくる。 「だから、一遍に捨てるとお金が掛かるから、少しずつ少しずつ自力で処分しようとしているのに、何でそれがわからないの!」 腹立たしさから思わず声を荒らげる。 「もったいない、もったいない」とこれ見よがしに言いながら、毎日のように大量消費、大量廃棄を続けている老母。 彼女が溜め込んだプラスチック容器とペットボトルでいっぱいになったゴミ袋を、隔週の月曜日、ゴミ集積場に持って行くたびに、憤りを伴った苛立ちが、束になって襲いかかってくるのである。
◆気の強い高齢者ほどやっかいなものはない 「ねえねえ聞いてよ。ウチの姑89歳なんだけど。未だに電動自転車で買い物に出掛けようとするから『転ぶと危ないから車で送りましょうか?』って声を掛けたら、『あなたの世話になるつもりはないから!』って言い返されて。それからは、気を遣ったところで気分が悪くなるだけだからもう放っておこうと思って。こっちからは何も言わないようにしてるんだ」 スーパーの店先で会った同級生が苦々しい表情で訴えてくる。 「ウチの母も何か言うと、必ず憎まれ口が帰ってくるよ」 私がカラオケ絡みのやり取り(老母はカラオケ教室に通っている)を伝えると、 「ウチの姑も相当だけど、そっちもかなりのもんだね」 老親あるあるで話が盛り上がる。 「『足下がおぼつかなくなってきてるから気をつけて』って言われたら、『そうだね。気をつけなきゃね』で済む話が、『年寄り扱いするな』とか『お前は私を馬鹿にしてる』とかって言い返してくるし。『代わりにやろうか?』って声を掛けると、『口を出してくるな!』って親の敵でも見るような目で睨み返してくるし。なぜそんなに意固地になるのかさっぱりわかんないんだよね」 「それも認知症の症状のひとつだって言われたらそれまでなんだけど。一緒に暮らしてる人間は、毎日それをやられたらたまんないよ」 ほんの数分でも、介護の経験がある者同士で話をすると気持ちはかなり軽くなる。とにかく溜めないこと。一人で抱え込んだところで何ひとついいことはない。 吐き出し合うことで、新たな情報を得ることもあるのだから、井戸端会議大いに結構。遠慮しないで愚痴を言い合わないと、長丁場となる介護などやってられないのだ。
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