「緩和」には適切な調整が必要…痛みとの付き合い方は人それぞれ【老親・家族 在宅での看取り方】
【老親・家族 在宅での看取り方】#97 患者さんの痛みをできるだけ取り除くことは、訪問診療の中でも非常に重要なことのひとつです。痛みがあるだけで、患者さんのQOL(生活の質)が大きく下がり、自宅での療養自体を難しくすることもあるからです。 ですが、いくら痛いからといって、体の弱った患者さんに対して、むやみに鎮痛剤などの麻薬を使えばよいというわけではなく、使うタイミングや使用量などの適切な調整が必要になります。 痛みの原因は種類がたくさんありますし、痛みとの付き合い方も患者さんによってさまざま。だからこそ、その患者さんにとってのベターは何かを探り、痛みのコントロールを図ることが求められます。 娘さんと同居する、胃がん末期の90代の女性。1カ月ほど前、夜の6時ごろに他の病院からのご紹介で、痛みのため救急に訪問の要請をいただいたのですが、結局はご本人の要望で、翌朝に改めてご自宅に伺うこととなりました。 「いま痛みはどうですか?」(私) 「左向きで寝てると落ち着いています。うちの中では壁につかまりながら歩いています」(本人) 「結構お痛みが強いと伺っています」(私) 「波はありますね。左向きだと全然痛くない」(本人) 「左向きでも痛いっていう時もあるよ」(娘) 「元々は元気だったんですけどね。もう90歳ですからね」(本人) 痛みでずいぶんと弱られているご様子のため、さっそく鎮痛剤の処方を検討することに。 「食事はそんなに食べられないですか」(私) 「ほとんど食べてない」(本人) 「エンシュアH(栄養剤)だけです。1日1缶弱。一度にたくさんだと痛みが出るので少しずつにしています」(娘) 「そういう時にオキノーム(鎮痛剤)を飲んでみたことってあります?」(私) 「最初カロナール(解熱鎮痛剤)を毎食後に飲んでいたんですけど、プラスして大丈夫ですか?」(娘) 「みなさん併用されてます。内臓痛とかにはオキノームの方が効きますし。整形外科的な痛みに対してはカロナールが効いたりするので、両方使って痛みを取るってことですね」(私) こうして2週間後には、鎮痛効果が発揮されたようで眠られる時間が増えてきましたが、衰えは隠せずしだいに無呼吸を繰り返す状態に。 「苦しそうではないですね」(娘) 「皆さんに週末会うことはできましたか?」(私) 「はい、兄の家族に」(娘) 私は呼吸の浅いご様子を見て、近々お看取りの可能性が高いことをお伝えし、その日から連日伺うことにしました。そして9日目に長い無呼吸へと陥ったのです。 「心臓の音は聞こえないですね」(私) 「さっきまで反応がありましたよね?」(娘) 「目の反応もないですね」(私) 「でもさっきまでは反応はありましたよね」(娘) 「反応があるか5分ほど様子をみましょう」(私) こうしてお母さまが旅立たれたことを、娘さんとご一緒に確認し、静かに穏やかに受け入れていただいたのでした。 (下山祐人/あけぼの診療所院長)