安易な〈円売り・ドル買い〉はリスキー 迫る「トランプ相場の賞味期限」とその反動【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
3. 増幅する円高リスク
■行き過ぎ感のあるドル円の水準とトランプ相場の賞味期限を考えた場合、やはり気がかりなのが「反動としての円高リスク」ではないでしょうか。そして、今後の円高リスクの発火点として注意したいのが、来年度(2025年10月から)の米連邦政府の予算編成です。というのも、足元では積極財政への期待が金利上昇を通じたドル高材料として意識されていますが、仮に、市場の関心が「財政悪化」に集中するようになると、同じ材料でも「悪い金利上昇」の名のもとにドル安要因へと転換してしまってもおかしくないからです。 〈金利差拡大でも進む円高〉 ■具体例でみてみましょう。2018年2月、米上下両院は公共事業費を積み増すために、歳出上限を合計3,000億ドル引き上げる予算関連法案を可決しました。この時、財政悪化懸念から米長期金利は年初の2.4%台から4月には3%台まで上昇しましたが、ドル円は金利上昇に反応してドル高が進むことはありませんでした。逆に、マーケットではこの金利上昇を財政悪化を懸念した「悪い金利上昇」と捉える向きが多数派で、ドル円は米金利の上昇と歩調を合わせて112円台から一時104円台まで円高が進みました(図表4)。 〈「悪い金利上昇」なら円高リスク台頭も〉 ■米国の大統領は通常1月、ないしは2月頃に予算教書を米議会に送付し、次年度の歳出、歳入、税制の方針や、中長期の経済・財政運営の見通しを提示します。そして、来年の早い時期に公表されるとみられる予算教書は内外の注目を大いに集めることとなりそうです。というのも、トランプ氏再任後の初めての予算教書となるだけでなく、「政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)」のトップに就任するテスラ社のイーロン・マスクCEOが、連邦政府の年間支出約6兆7,500億ドルから2兆ドルを削減すると宣言しているからです。 ■このため、この予算教書や来年度の予算編成がマスク氏の広げた大風呂敷とはほど遠いものとなった場合、マーケットでは失望感とともに、悪い金利上昇による「円高ドル安リスク」が台頭する可能性が出てきそうです。 ■現状のドル円を取り巻く環境は、(1)日米の金融政策が逆方向で動いているにも関わらず、日米金利差と乖離してドル高が進んでおり、(2)トランプ相場の賞味期限はあまり長くはなさそうで、さらに、(3)来年の早い段階で米国の財政問題にスポットライトが当たりかねない状況にあります。そんな最中に、トランプ氏がこれまでたびたび発言してきたように、「円安や人民元安は米国にとって大問題だ」と発言するようなことが有れば、思いのほか円高が進んでしまっても決して不思議でないでしょう。 ■そう考えると、足元の水準から円安ドル高のトレンド継続を期待したポジションをとるのは、とても勇気がある振舞いに思えてなりません。
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