選挙をおもちゃにする人々が教えてくれること
本来は死に票を減らすための工夫
比例代表は、小選挙区制度と対になる小選挙区比例代表並立制として、94年に導入された。 小選挙区制度というのは、1つの選挙区から1人の議員を選出する制度だ。この選挙区制度では、当選者以外の立候補者に投票された票が、すべて代表者選出に寄与しない“死に票”になってしまう。具体的に言えば、3人が立候補し、ほぼ拮抗して有効投票の1/3ずつを獲得していたとしても、他の2人よりも1票でも多く獲得した者が当選し、残る2人に投票された約2/3の票の意思は、代表者を得て政治の場に出ていくことができない。 そこの解決を狙ったのが、比例代表との組み合わせだ。比例代表は各政党の得票数に比例して議席が配分される。このため有権者の意思表示としての投票行動が確実に議席に反映される。死に票となるのは、1議席分の票に満たなかった小政党に投じられた票だけだ。 小選挙区制度の死に票が多いという欠点を、比例代表という死に票が極小になる仕組みで補っているわけだ。 選挙制度は、確実に民意を反映している必要がある。そのためには死に票は発生しないほうが好ましい。その一方で、ある程度少数意見を整理淘汰し、権力を集中する必要もある。素早い政治的意思決定を可能にし、社会状況の変化に的確に対応できるようにするためだ。民意の確実な反映と素早く的確な政治的意思決定を可能にする権力の集中の両立は、民主主義政体にとって永遠の課題だ。 少数意見の淘汰の一番の基層にあるのは、社会に必然的に存在する少数者による後ろ暗い悪意や狂気が政治的意思決定に関与しないようにするフィルタリングだ。電気回路的に言えば、フィルタ回路を通して信号からノイズを除去するようなものだろう。端的に言えば、NHK党のような政党が政治の表に出てこないようにするためである。 今回のNHK党による都知事選挙における選挙ポスター掲示板ジャックは、2つの理由から発生している。 まず、小選挙区比例代表並立制という制度の持つノイズ除去機能よりも強いノイズが発生し、システムの中に入り込んでしまったこと。 そして、政治制度の中に政党交付金という、ノイズをも増幅する仕組みが存在していたということだ。 前者は、電気回路で言えば、ノイズ除去という要求仕様に対するフィルタ回路設計の失敗であり、後者は回路設計におけるバグだ。解決には電気回路の設計変更と、フィルタの再設定やゲイン(利得:増幅回路における入力と出力の比)の調節が必要、ということになろうか。 が、現実は人間社会のシステムなので、様々な利害関係者の思惑が絡まってくる。電気回路の設計ミスを修正するように問題解決できるとは限らない。 今回、この記事を書くために選挙制度の歴史や各国の制度の違いなどを調べたのだけれど、そこにはものすごい泥沼が広がっていた。 政治権力はどうしても現実社会の経済的利益と結びついて利権となる。権力は国家予算を編成し、執行する。つまり経済的な利益の分配を行う。“お友達”や“お仲間”に利益を配分すれば、そこから金銭や組織票などのキックバックを受け取ることが可能になる。権力者とその“お友達”や“お仲間”にとってのwin-winの関係を構築することが可能になる。 この“お友達”や“お仲間”を、国民全体にまで拡大することができると、国は発展する。国の利益は即国民の利益となり、利益を得た国民は民主的なシステムで権力者を支持するので、政治は安定する。 だが、そこで「国民全員ではなく、自分たちだけが利益を国から得て、富裕になりたい」と考え、利権を持つ政治に接近し、政治の側も「そんな利便を提供してくれるなら君たちをひいきしよう」と呼応すると逆コースが発生する。