「本音と建前」が心をむしばむ――イタリア人精神科医が見つめる日本人の不調
自分が幸せでも素直に喜んでよい状況なのかを注意深く観察する。そこにも日本ならではの「他者の目線がある」と指摘する。 「こういう振る舞いを見ていると、社会の所属感、つまり“社会の一員であり続ける”“よそ様に迷惑をかけない”といったことに強いエネルギーを日本人は使っているんだなと感じました。“社会的使命”という言葉が心理学にはありますが、他者や社会から認められない自分のあり方は『恥』『外れている』と思ってしまう。他者から認められたいという“他者承認”欲求が満たされないと、自分が幸せであることを実感できないのだと思います」 フランチェスコさんの患者に、義母との関係性で悩む女性がいた。趣味などに時間を使いたいのだけれど、夫の手前もあって義母と行動を共にすることを第一に考えなければならなかった。我慢して義母につきあううちに、身体に原因不明の変調をきたすようになった。フランチェスコさんは、これも社会的使命によって自分の幸せを犠牲にした結果だと見る。 「この女性のように、体調が悪かったりするのは、心のトラブルの表れです。日本人は自分の悩みを人に相談したりせずに、抱え込んでしまう傾向があると思います。イタリア人の場合は不安などの感情に向き合って、しんどくなったら周りにしゃべっちゃう。日本人の場合は、負の感情の“居場所”がないんですね。ひたすらため込んで、その感情と向き合うことなくそのままにして抱え込んでしまうと、それが毒になる。さらに膨らむと“怪物”のようになってしまう」
先ほどの義母に対する女性の態度は、家族の中でうまく生き抜く知恵でもあるだろう。それをするなと言われても、外国人のあなたに何が分かるの? そんな簡単な話じゃない、という反応も出るのではないか。 「気持ちは分かります。でもそういう場合は医師としての科学的な見解を冷静に話すしかないのです。『今の状態を続けると症状はよくならないですよ』と。診察していてつくづく思うのは、自分にもっと優しくしてほしいということです。自分の幸せにもう少し貪欲になってもいいんじゃないかとも。最終的には、自分がいちばん大切なので。自分が成し遂げたいこと、希望することを優先してほしいです」