「本音と建前」が心をむしばむ――イタリア人精神科医が見つめる日本人の不調
「魔法を使ったり、世界冒険ができたりして、元気になるんです。アニメやゲームは現実世界から逃避する道具として見られることがありますが、そうではないと思うのです。好きなキャラクターに自分を投影して、そのキャラクター目線で現実の問題を見つめ直すと、あたかも自分の問題を鑑賞するような形で悩みに向き合えるようになります」 11歳の頃には日本を紹介するドキュメンタリーをテレビで見る。日本古来の音楽や神秘的な景色を背景に、ひきこもりなど社会問題も紹介されていた。 「日本文化が持つ芸術的で、美的な部分に感動しました。一方で、社会の混沌とした状態にも好奇心が湧いてきて。自分もひきこもり的なところがあったから感情移入もできた。番組を見た後、母に『僕は日本に住むことになる』と言ったんです」
イタリアの名門大医学部を首席で卒業し日本へ
内省的な思春期を送ったためか、心の働き方に興味をもち、ローマにあるカトリック大学で精神医学を学ぶ。首席で卒業すると、幼少期から描いた夢を実現するため日本を目指す。 ただ、留学しようにも情報がない。トップクラスの大学を中心に調べて、「いちばん優しそうな顔の教授」に連絡を取ることにした。それが慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の三村將教授。メールでコンタクトした。三村教授はこう話す。 「日本語は未熟でしたが、文面から誠実さが伝わってきたので相談に乗りました。私費で留学するというので、文部科学省の国費外国人留学生制度があることを伝えました」
2015年、同制度の審査をパスし、博士課程で学べる資格を得る。そしてその春から、ひきこもり研究の第一人者、前出の斎藤環教授のもとで研究を始める。フランチェスコさんの研究テーマは、「フィクションによってひきこもり経験者の気持ちは前向きになるか」。 これは自身の経験が原点にあるという。 「僕はアニメとかゲームの中で得た学びに力をもらって、その力を現実の世界に向けられた。それがなければ心の安定は保てなかったし、今の自分もない。ひきこもりにとってゲームやアニメはあまりよくないと言われるかもしれないけれど、社会的な行動を高める可能性があるんじゃないか。普段、外の社会に接していなくても、物語の世界に接することで、他者に対して共感や配慮ができ、思いやりの気持ちを持てるんじゃないかな、と思って」