「いらないものなんてない」“たくさんのモノ”に囲まれて暮らす89歳ーー「非ミニマリスト」のモノを捨てない住まい方
■「非ミニマム」な住まい方 しかし、あらゆる肩書から下りて、65歳のときに次姉の家にも近い神奈川県川崎市の3LDKのマンションを購入後、ソロ活の道具や材料が爆増していく。 調理師資格を持つ腕前の料理、お茶に仕舞、編み物、折り紙、ハンドクラフト、旅行……。それらのソロ活の成果を惜しみなく「人をもてなす」ことに活用する小森さんは、来客用の和洋中の食器やグラス、プロ仕様の調理器具などを数多く所有している。
お茶道具や着物、大小のスーツケースなどの大物以外にも、旅先で買い求めた思い出の品々や友人からの贈り物など、心を癒す小物も増える。 「部屋が3つあるので、寝るときは寝室、おもてなしはあっちの部屋、手仕事はこっちの部屋と移動しながら、全室フル活用していました」と笑う。1人暮らしの3LDK全室が、小森さんの活動地点そのものだったのだ。 そんな15年間の勢いある住まい方に幕を閉じ、80歳のときに移り住んだ人生最後の住まいは17畳の一部屋。再びの一間暮らしとなる。
グループリビング・おでんせ中の島に入居するにあたって、どう考えてもほとんどのものを処分しないと17畳の居室には収まらない。 小森さんは手放せないものを3つに分け、取捨要検討の箱も作る。要検討は主に来客用の食器類や値の張る鍋、調理器具たち。これが大きな段ボール10箱にもなった。 さて、これをどうしようかと考えた小森さんは、パッと閃いて、行きつけの美容室に相談したという。 「女性スタッフが10人もいる大きな美容室なので、皆さんが欲しいものがあったらもらっていただき、残ったものは捨ててほしいとお話したら、『ぜひ!』と言ってくださったので、10箱すべて差し上げました」
手放したくないものは、折に触れて何度も読み返してきた本。著名な陶芸家だった父の作品のお茶道具。茶碗は30~40個にもなる。 それから着物。1/3は親しい人へ、1/3は姪や甥の結婚相手に着てもらいたくて次姉宅に運んだ。残り1/3がまだ箪笥2棹分もある。 趣味の手芸作品やアルバムの数々、これまでのさまざまな活動の記録や写真集も捨てられなかった。とても17畳の一室に収まる量ではない。 小森さんはそれらを要・不要で選別することはできなかったし、前に流行した「ときめくかどうか?」という取捨の線引きも、答えは「全部ときめく」だった。