「いらないものなんてない」“たくさんのモノ”に囲まれて暮らす89歳ーー「非ミニマリスト」のモノを捨てない住まい方
「私は1人の時間が大好きなんです。自分のことだけをあれこれ考えていられるから。散歩や木工、料理をしながら日々のことを振り返って、失敗しちゃったかな、別のやり方もあったかな、などと反省したり、今度は何をしようかなって新しくやってみたいことを考えたり。 じっくり考えて決めたいことも宿題のように山小屋に持ってきて、頭の中をリセットしてからあれこれ考えを巡らせて、結論を出したりします」 ■小森さんの「住まい遍歴」
ここ数年、若者を中心に「ソロ活」がブームになっている。ソロ活とは「ソロ(単独)」と「活動」を組み合わせた造語で、1人で好きな場所に出かけ、好きなことをして過ごすこと。 小森さんは20代の頃から、旅行や登山などをソロ活で楽しんできた。旧ソ連や北欧、ヨーロッパ、アメリカ、アジアなど多くの国を訪れ、毎年のようにお気に入りの山々に登っていた。 特にソロ活の1人時間が味わい深いものになってきたのは、51歳で幼稚園を退職してからだという。
「私から“先生”という肩書が取れて、小森祥子という素の自分に戻る。身一つになった解放感は大きなものでした。朝、起きて天気がよければ車で遠出したり、旅行は行先だけ決めて出発したり。 出かける先々で、美しい風景もご飯のおいしさも自分のペースで味わえますよね。大好きな山歩きのとき、可憐な草花を見つけたら心行くまで眺めていられる。同行者がいると、そうはいきません(笑)」 1人で自由に好きなことに浸る時間は、この世に1人しかいない自分を大切にする時間だ。「シニアソロ活」を絶賛実践中の小森さんは、定年退職をした人、子育てや主婦業を卒業した人たちにこそ、ソロ活を勧める。
「1人でやりたいことができる、行きたいところに行けるという経験は、これからの老後の自信にもつながると思います」 小森さんのシニアソロ活の充実ぶりは、住まい方にも大きな変化をおよぼしている。 20代で暮らした木造アパートを振り出しに、2度の引っ越しを経て、38歳のときに360万円で都心のマンションを購入。それまでは、どの住まいも家賃と交通の便を優先して、一間暮らしだった。 幼稚園教諭の他に生活費の足しにと副業を掛け持ち、20代で加入した東京ユース・ホステルでは事務局長を務めるなど、公私ともに多忙を極めていた現役時代。当時の小森さんにとって「住まいは活動地点」でしかなかったのである。