「むなしさ」は怖くない 善光寺大勧進の栢木寛照貫主×きたやまおさむ氏 語り合う人生哲学
日本の旅の歌、どこにも着かない
対談では、日本の歌に現れる「むなしさ」についても話が及んだ。 きたやまおさむ氏は、「日本の旅の歌って、たいていどこにも着かないですよ」と指摘。 「『襟裳岬』はたどり着いても何もない春ですって言うし、長崎に行くといつも雨が降ってるし(「長崎は今日も雨だった」)」と例を挙げ、日本人特有の「むなしさ」への向き合い方を示唆した。 さらに「探しているものは見つからないんですよ。皆さん簡単には。日本人ってどっちかって言うと、この見つからないということに耐えることこそが、毎日毎日を充実させて生きていくことが、つまり通り過ぎていくだけが人生なんだって、いうふうな一つの『達観』、これを日本の歌謡曲は歌い上げてます。それが人生の真実を語っているところでもありますね」と日本人の精神性を語った。
「横のつながりを育む」
対談には信州大学の学生たちも参加し、現代の若者が抱える悩みについても意見が交わされた。 中でもSNSの普及による人間関係の変化について、きたやまおさむ氏は「ネットでの情報交換の時には横に誰もいないことが問題。横のつながりを育む、これを忘れてはいけないなと思うんです」と指摘。「同じものを歌ったり、同じものを楽しんだり、同じものをめでたりするときの横のつながりが、私たちの心と心のつながりだった」と、人と人との直接的な交流の重要性を強調した。 そして、この思いをこめたのが自身作詞の「あの素晴しい愛をもう一度」だと話す。 栢木貫主も「電波で通じて、電波でつながっているのは横も前も何にもいませんから、どこかで壊れるでしょうね。すぐ壊れるでしょうね」と同意し、自然体でものを考えることの大切さを説いた。
「むなしさ」と生きる
対談を終えて、きたやまおさむ氏は「今日の対話のようなことを皆さんがお茶の間であるいは親子関係の間であるいは夫婦の間で恋人同士で続けていただければ、望外の喜びです」と感想を述べた。 栢木貫主も「真剣に耳を傾けて、そして質問も真剣に、自分なりの言葉と自分が思ってることを質問された」と学生たちの姿勢を評価し、対談の意義を強調した。 この対談を通じて、「むなしさ」と向き合うことの重要性が浮き彫りになった。否定的に捉えられがちな感情を、人生を豊かにする可能性を秘めたものとして捉え直す視点は、現代社会を生きる多くの人々にとって示唆に富むものとなるだろう。 NBS長野放送 特別番組『「むなしさ」と生きる』(2024年12月31日放送)より
長野放送