特別編・ギニアビサウ 取材報告 地球温暖化による海面上昇に喘ぐ最貧国の現状
地球環境問題を考えるセーブアース。第21回の今回は特別編として、司会を務める井田徹治による、地球温暖化による海面上昇に喘ぐ西アフリカの国、ギニアビサウの取材のレポートをお送りする。 地球温暖化に伴う海面上昇の影響を受ける国ということでは、これまでビデオニュースでもツバルの現状を何度か取り上げてきた。実際、ツバル以外にもモルディブなどの小さな島国が海面上昇に対してもっとも脆弱であることは間違いない。 しかし、海面上昇はもはや島嶼諸国だけの問題ではない。今回井田が取材した西アフリカのギニアビサウは島国ではないが、それでも地球温暖化によって国家存亡の危機に瀕している国の一つだ。 ギニアビサウが海面上昇によって受ける被害は深刻だ。例えば、今回井田が取材に赴いたジョベル村では海面上昇の影響で井戸に海水が混入したり、海水が農地に入り込み作物が育たなくなるなど、元々貧困な国の生活環境が更に悪化している。国連主導で行われた海岸近くの住民を内陸に移住させる策も、移住先の住民との間で摩擦が生じ紛争にまで発展したことで、頓挫してしまった。環境難民の移動が紛争を引き起こす事例は、ギニアビサウに限ったことではないが、特に元々貧困な国では住民間に大きな摩擦を引き起こす場合が多い。 海面上昇は地球温暖化によって海水が膨脹したり、氷床が溶けたりすることで発生するものだが、気温上昇と実際の海面上昇の間には長いタイムラグがある。そのため、現在の地球気温の急激な上昇が潮位に直接反映されるまでにはまだ多少の時間的な猶予がある。しかし、海面の上昇は確実に、そして加速度的に進行している。世界人口の大半が海岸線近くの低い土地に住んでいることもあり、このまま海面上昇が続けば、世界中で何千万、いや億人単位もの住民が現在の住み家を追われる環境難民化する恐れがある。その意味で海面上昇は地球温暖化や気候変動の中でももっとも重大な問題だ。 海面上昇については、2040年くらいまではゆっくりと進むが、2050年ごろから急激な上昇が始まると考えられている。地球の気温上昇を現在の目標値の2℃までに抑えられた場合でも海面は地球平均で50cmから3m上昇するとされるが、IPCCの非常に高いシナリオの場合、2mから最大で7mの上昇が、南極の氷床の溶解が始まった場合、最大で15m上昇する危険もあることが予想されている。ちなみに1mの上昇で東京23区の7割が、15mの上昇だと関東地方がほぼ丸ごと海面下に入ることになる。 2040年頃まで海面上昇の進展がゆっくり進むこともあり、先進国ではこの問題の深刻さが十分に認識されていないところがある。しかし、その影響は脆弱な貧困国に始まり、やがては世界中のあらゆる国が絶望的な影響を受けることは必至だ。ギニアビサウに今起きていることが、やがては全地球的に起きることを念頭に、現地報告を交えながら井田徹治と新井麻希が議論した。 【プロフィール】 井田 徹治(いだ てつじ) 共同通信編集委員兼論説委員 環境・開発・エネルギー問題担当 1959年東京都生まれ。83年東京大学文学部卒業。同年共同通信社入社。科学部記者、ワシントン特派員などを経て2010年より現職。著書に『ウナギ』、『生物多様性とは何か』『データで検証 地球の資源』など。 新井 麻希(あらい まき) キャスター 1982年東京都生まれ。2004年慶應義塾大学法学部卒業。05年TBSテレビ入社。アナウンス部を経て10年よりフリー。 【ビデオニュース・ドットコムについて】 ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(ベーシックプラン月額550円・スタンダードプラン1100円)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。 (本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)