「トランプ米大統領」への7つの課題と戦略は?
11月の米大統領選に向け、共和党は21日まで党大会を開き、トランプ氏を大統領候補に正式に指名しました。主流派の一部が欠席したり、クルーズ氏が支持を表明しなかったり、異例の党大会となりましたが、そこから何が見えたのかについて、アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に寄稿してもらいました。 【写真】クリントン氏とトランプ氏が激突 今秋の大統領選で勝つのは?
共和党大会を振り返る
「保守」vs「リベラル」といった対立軸に加えて、「持てる者」vs「持たざる者」、「グローバル化」vs「反グローバル化」、「白人」vs「マイノリティ」といった新たな分断線も透けて見える今回の米大統領選。4日間の共和党大会を通してドナルド・トランプ氏の今後の課題と戦略がかなり浮き彫りになった。
(1)不規則発言の封印
党大会に出席した代議員によるトランプ氏への投票率は70%。前回(12年)のミット・ロムニー氏の90%、前々回(08年)のジョン・マケイン氏の98%と比べると相当低い。激戦州オハイオでの開催にもかかわらず、ジョン・ケーシック知事(共和党)は欠席。最後まで予備選を争ったテッド・クルーズ氏は壇上でも支持表明を拒んだ。 トランプ氏の指名受諾演説そのものは党内融和を意識した抑制的なものだった。プロンプターを用いた演説なら安心だ。 しかし、問題はインタビューや集会、討論会での不規則発言だ。20日付の米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューではNATO(北大西洋条約機構)の共同防衛体制の見直しを提言、党内の外交・安保関係者から悲鳴と批判が湧き上がった。こうした不規則発言を「PC(建前論)への挑戦」と歓迎する支持者も少なくないなか、陣営がトランプ氏をどうコントロールできるか。米大統領選では分裂した党がほぼ一貫して敗北している。議会選挙への影響も看過できない。
(2)組織の立て直し
クリントン陣営がこれまで集めた選挙資金は2億8800万ドル(約306億円)で、トランプ陣営は9000万ドル(うち5000万ドルは自腹)。 また、クリントン陣営は激戦州を中心に14州に100以上の選挙事務所を開設し、45州に選挙スタッフを配する一方、トランプ陣営の事務所はまばら。電話番号しかない、開店休業に近い、予定の半数にもスタッフが満たない……といった事務所も少なくない。空中戦(テレビ広告、インターネット)と地上戦(戸別訪問、遊説)が熾烈さを増す本選へ向け、どこまで共和党の全国・地方組織と連携を図ってゆけるか。内輪揉めが漏れ聞こえてくるようだと危険信号だ。