プロ野球「超投高打低」異常事態の象徴…レア記録のはずが4年で14例「100球未満完封=マダックス」の背景〈OPSは衝撃的な急落〉
6月12日、ベルーナドームの西武-広島の交流戦で、西武の左腕・隅田知一郎(ちひろ)が「マダックス=100球未満での完封」を達成するのを観た。プロ野球を見始めて50年近くになるが、マダックスを意識して観戦したのは初めてだった。 9回2死まできて隅田の投球数は96球、打者は小園海斗、隅田は2ストライクから最後は空振りに切って取り、捕手の古賀悠斗が一塁の元山飛優に送球して3球三振でぎりぎりの「マダックス」を成立させた。8連敗中の西武にとっては、長いトンネルを抜ける1勝でもあった。 【貴重写真】「大谷17歳ガリガリなのに…」衝撃の特大HR!ぷっくり捕手な村上17、ヤンチャそうな学ラン姿の張本、実は投手だった王さん…名選手140人超の高校時代を見る 3年目の隅田は1年目からローテを維持してきたが、当初は制球力に難があった。しかし昨年のアジアチャンピオンシップでは見違えるような投球を見せた。不振が続く西武だが、隅田は希望の星の一人だろう。
「マダックス」の元祖マダックスは78球で完投したことも
「100球未満での完封」をマダックスと呼ぶのは、MLBで355勝を挙げた殿堂入りの大投手、グレッグ・マダックスが何度もこの記録を達成したことにちなんでいる。 実際に何回記録したかは、よくわかっていない。MLBでは1990年代まで公式戦の投球数を記録していない試合があったからだ。1986年から2008年までMLBで投げたマダックスにも投球数がわからない試合があるのだ。 MLBの記録サイト『Baseball Reference』のマダックスのGame Log(各試合ごとの記録)を集計してみると、1990年から2000年の間に少なくとも13回「100球未満での完封」を記録している(1990年~94年各1回、95年2回、97年1回、98年3回、2000年2回)。最少は84球だった。 さらに失点しながら100球未満で完投した試合も13試合ある。最少は何と78球。1997年7月22日、当時ブレーブスのマダックスは、カブスを相手に5被安打1失点しながら78球で完投している。
“1回11球ペース”で投げるという高難易度
球速、奪三振力、制球力、投手の持ち味はいろいろあるが「少ない球数で投げられること」は「最上級の長所」と言える。球数が少ない先発投手は、自身の肩肘への負担が少ないだけでなく、救援投手にも大きな負担をかけない。試合時間も短いから野手の負担も少ない。 近年、投球数がクローズアップされて「マダックス」は究極の好投として注目されるようになったのだ。 筆者は10年ほど前、先日亡くなった清川栄治さんに「先発投手の投球の組み立ての基本は何ですか?」と聞いたことがある。広島、オリックスなどで名投手コーチとして鳴らした清川さんは「1回15球を目安に球数を見ています。そのペースで投げることができればOKですね」と話した。 1回15球なら7回105球、これが投手の合格ラインなのだ。マダックスは9回99球だから1回11球、打者にファウルで粘られれば、すぐにオーバーする。いかに難易度が高いかがわかる。
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